【2005年読書ランキング】で褒める
2005年読書ランキング
- 『終戦のローレライ』福井晴敏
- 『死亡推定時刻』朔立木
- 『殺人症候群』貫井徳郎
- 『亡国のイージス』福井晴敏
- 『社員心得帖』松下幸之助
- 『出口のない海』横山秀夫
- 『功名が辻』司馬遼太郎
- 『殺し屋シュウ』野沢尚
- 『闇の貴族』新堂冬樹
- 『永遠の途中』唯川恵
- 『第三の時効』横山秀夫
- 『ベルナのしっぽ』郡司ななえ
- 『ジョッキー』松樹剛史
- 『いとしのヒナゴン』重松清
- 『安政五年の大脱走』五十嵐貴久
それぞれの一言コメント
※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。
①「終戦のローレライ」福井晴敏
完璧の名がふさわしい超大作。単なる戦争小説ではなく、秀逸な青春物語でもあり、淡い恋愛小説でもある。ヒューマンドラマとしてとても重厚な作品。圧倒的スケールで迫力満点に描写される海戦シーンは誰しも手に汗握るはず。「読み物」としての力が最大限発揮された福井晴敏さんの最高傑作の一つ。
②「死亡推定時刻」朔立木
問題提起においては比類なきクオリティを見せている。「本」が持つ大きな力を感じることができる作品。現代の司法制度が抱える大きな問題点と、脱却できない多くのしがらみ。それに立ち向かう人間たちの生き方が読者に力強く語りかける。冤罪問題をあらためて深く考えさせられた。
③「殺人症候群」貫井徳郎
症候群シリーズ最終作。三人の探偵の」プロが活躍した前2作とは全く違う立ち位置をとる。というより、これまでの作品は今作における大いなる伏線とも言えよう。ディテールも素晴らしく、作品として完全無欠で隙がない。驚嘆の叙述トリック、価値観の大転換、事件の急展開、心に深く刻まれる結末、どれをとっても一級品。
④「亡国のイージス」福井晴敏
難解で読みづらい作品で、読者に大きな負荷をかけてくる。が、その負荷の向こうに読後の大きな充実感・達成感が待っている。世界観が大きすぎて混乱するかもしれないが、丁寧に読み進めていくことで、最後の驚くべき真相に辿り着くことができる。アクの強い主人公がいい味を出しているのだが、刺々しさが好き嫌いわかれそうな気はする。
⑤「社員心得帖」松下幸之助
経営の神様・松下幸之助さんの教えの原点がこの作品に詰まっている。字体は大きく一時間程度で読めてしまうものだが、その内容の体得は一生をかけないといけないくらい深いものである。ビジネス書として大ベストセラーの作品であり、仕事をする上で欠かすことができない。全ての社会人にとってのバイブル的存在。
⑥「出口のない海」横山秀夫
戦争の哀しさ、虚しさ、やるせなさを一風変わった視点から捉えた横山秀夫さんの快作。人間の生き様や命の尊さを訴えかけたヒューマニズムにあふれた作品で、横山さんの強いメッセージがこめられている。人間魚雷、神風特攻隊で消えていった若者の心を慮ると、涙を禁じ得ない。
⑦「功名が辻」司馬遼太郎
山内一豊と妻・千代のユーモラスな掛け合いと活躍が心地よい司馬遼太郎の隠れた名作。司馬史観では英雄が色あせることが多い反面、日の当たらない脇役の魅力が引き出されるように思える。今作では千代の内助の功が活き活きと描かれ、読むものを楽しませてくれる。そしてこの時代における夫婦の理想の形が示された。
⑧「殺し屋シュウ」野沢尚
ハードボイルドとまではいかないものの、若い殺し屋のクールな生き方がとてもかっこよく魅力的に描かれている。ライトタッチでありつつ、ドライに世の中を捉え、シャープな印象を全体に漂わせる。連作短編でありながら、結果として一冊の青春小説に仕上がっているのは野沢尚さんならではの妙技と言ったところか。
⑨「闇の貴族」新堂冬樹
これぞまさに新堂冬樹ワールドの真骨頂。この世界観は馳星周さんか新堂さんにしか描けないほどの本格派ノワール。過激すぎる描写が非情・無情で冷酷な裏社会を生々しく映し出す。その一方で展開にスピード感があり、内容の重厚さに反比例して読みやすい。結末における強烈なツイストは超弩級のエンターテイメントの証明だ。
⑩「永遠の途中」唯川恵
どちらかというと淡白な恋愛小説を得意とする作家さんだったが、今作では丁寧な心理描写と見事な構成力を発揮。ゆとりと重みを兼ね備えた力作になっている。結婚に生きる女性と仕事に生きる女性の対比はとても興味深く面白く描かれ「隣の芝は青い」という諺を実感する。山本文緒さん、村山由佳さんらと女性作家の存在感を高める役割を担っていたのが思い出深い。
⑪「第三の時効」横山秀夫
横山秀夫さんの無駄のないスタイリッシュな世界構築が印象的な短編警察小説。優れた刑事たちがその強すぎる個性ゆえに、時にぶつかり合い醜い派閥争いに発展してしまうが、読者にとってはこれがたまらなく面白い。心憎い演出がたくさん盛り込まれており、読むことの喜びを教えてくれる。これまた完璧といえる作品の一つだろう。
⑫「ベルナのしっぽ」郡司ななえ
盲目の著者と盲導犬ベルナの強い絆を描く。決して文章が優れているわけでもないし、構成が見事なわけでもない。作品レベルとしては二流に見えてしまうが、感動レベルは間違いなく一流レベルにある。プロの作家ではなく素人さんが書くからこその感動がある。素直な感情表現に心揺さぶられた。
⑬「ジョッキー」松樹剛史
文章に未熟さは残るものの、若々しい視点と躍動感、荒々しささえ感じる言い回しは、競馬が持つスピード感や迫力、緊迫感を表すのにぴったりだったのではないか。スポーツの心地よさがストレートに伝わったとても好感度の高い作品と言えるだろう。主人公の成長が楽しめる青春小説でもある。
⑭「いとしのヒナゴン」重松清
珍獣「ヒナゴン」が実在するかどうかを追いかけるという一風変わった展開を見せる物語。しかしながら主題は珍獣の存在を突き止めることではなく、「信じる」ことのすばらしさに気づくことだった。信じる人間の生き様は、人間の持つ自己矛盾や善悪を浮き彫りにするだけでなく、それらを全て包み込んでくれるのだ。
⑮「安政五年の大脱走」五十嵐貴久
「リカ」の圧倒的なイメージに隠れがちだが、五十嵐貴久さんはこんな時代小説も作品として残している。とてもテンポがよく文体も古臭くないので、読みやすく全体の安定感も抜群。登場人物も主人公のみならず脇役に至るまで丁寧に描かれているので味わい深い。「ショーシャンクの空に」にも似た壮大な脱出劇の結末やいかに。
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