【マネ】を褒める

2022年7月24日

《独創的なタッチと色使いを駆使した印象派の父》

印象派絵画が革新的な画風であることは現代においても多くの人々に知られています。あまりに斬新すぎたために、当時は大きな批判に包まれたことも誰もが知っている事実としてとらえられています。その中でも印象派のリーダー的存在となり、後に“印象派の父”とまでに称されるようになったマネの絵は、極めて独創的であり衝撃をもって受け止められたものでした。当然多くの批判が集まり、一大スキャンダルにまで発展したのですが、驚くことに当のマネ自身は自らの作品がそのような批判にさらされ、騒動を引き起こすとは夢にも思っておらず、世間のそのような評価に落胆していたのです。

元々裕福な家庭に育ったマネは若い頃から、才能にあふれ頭角を表していきました。成人する頃には彼のアイデンティティーは確立され、過去の芸術の枠にとらわれない新しいアプローチに挑んでいったのです。その結実とも言える『テュイルリーの音楽会』を自信持って発表したマネでしたが、これがかなりの悪評となってしまいました。それでもこの時点ではマネに向けられた批判は“嘲笑”にすぎないものだったと言えるでしょう。

続いて発表された『草上の昼食』は人々の怒りを買い、大スキャンダルを巻き起こしてしまうのです。今でこそその高い芸術性が認められ、美術の教科書にも載っている彼の代表作ですが、ほのぼのとした自然の風景に突如あらわれた女性の裸体は、風紀を乱すものに他ならなかったのです。これまで、ヴィーナスなどの神話世界の描写のみに許されていた裸体を、あろうことか現実社会の一場面の中に写し出したマネの絵画はパリの批評家に到底受け入れられるものではなかったのです。

さらには自身の最高傑作として同時期に発表された『オランピア』はルネサンスの巨匠ティツィアーノの名画『ウルビーノのヴィーナス』と構図が似ていたことから、比較され“低俗で批評するに値しない”と切り捨てられたのです。実はマネの巨匠に対する敬意であったというのは語られず、パリでその実力を認められなかったマネは、その後苦難の創作活動を余儀なくされてしまうのでした。

しかし、マネの絵を見たときに強烈に心奪われるのは何故でしょうか。私は、“印象派”の名前の由来がモネの作品にあると知る前までは、マネのあまりに印象的な画風を代表してそう呼んでいるのだと本気で思っていました。それほど彼の絵は心に残るのです。
その理由や解説は専門家にお任せしないといけませんが、私なりの感性で褒めさせていただくとするならば、「独特のタッチ」「色使い」の2点となります。

「独特のタッチ」について、印象派画家は数多くいるものの、彼のようなゴツゴツとしたタッチで描く画家は他にあまりみられません。柔らかく繊細なタッチが多いのではないでしょうか。マネは細かな線を無理に描かずあえて太く大胆とも言える筆捌きで、対象をとらえます。ある種、後期印象派に近いものがあるかもしれません。そのため、作品自体がダイナミックで大きな力を有しているように思えます。私の褒めたい点は、この手法に挑戦する勇気です。ある意味不規則でまとまりのないものを描くことは非常に難しいでしょうし、作品にそれを投影するにはある程度の覚悟が必要であったはずです。しかしながら、それは私の浅知恵にすぎず、才能溢れるマネにとってはそんなことさえ勇気にもならない朝飯前のことだったのかもしれませんけどね。

「色使い」についても、モネのもつ光の細かな描写は全く見られず、こちらも大胆にまるでペンキを塗るかのごとくキャンバスに色をつけていくのです。迷いのない迫力のある色使い。実はここにも他の印象派画家たちと大きく異なる点が隠されています。それは“黒”を積極的に使うことでした。鮮やかな色彩を出すために黒の使用を控える印象派のメンバーたち。しかしマネはあえて黒を使うことで明暗や白黒のコントラストを引出し、ひいては他の作品とのコントラストをつけることに成功したのです。ここでの褒めポイントも黒を使う勇気と言えるでしょう。しかしながら、この記事を書きながら、そんな小さいことだけでマネがマネたる所以を言い表せないような気がしてきました。そうなってくると、もはや褒め記事、破綻ですね。

余談ですがマネには優秀なモデルがいました。オランピアのモデルにもなったヴィクトリーヌ・ムラン、そして後年マネの弟の妻となるベルト・モリゾ。この二人は優れたモデルで魅力的な女性であったことはもちろん、どちらも自身が画家であったことも興味深いですね。モリゾは画家としての名声を獲得しましたが、ムランは大成することはありませんでした、が彼女の姿はマネの代表作にしっかりと描かれているため、モリゾが得た名声以上に、時代を越えて世界中の人々の知るところとなりました。

おすすめ10選

『オランピア』

『草上の昼食』

『バルコニー』

『フォリー・ベルジェールの酒場』

 

『黒い帽子のベルト・モリゾ』

 

『アルジャントゥーユ』

 

『庭のモネの家族』

 

『ナナ』

 

『鉄道』

 

『オーギュスト・マネ夫妻の肖像』