【『シークレット・エクスプレス』真保裕一】を褒める
読了後の感想(3分で読めるよ)
真保さんの作品はどれも緻密な取材の元に作られているなと感じます。初期の作品なんかはマニアックなくらいに細かくて、その道に通じているかのようです。今作で取り扱った題材もなかなかにニッチを攻めてきましたね。通常ダイヤにはない臨時列車:シークレット・エクスプレス。たしかにそういう列車があってしかるべきですもんね。私の路線にも貨物を走らせる線路があって、たまに臨時貨物列車を見るのですが、それは魚を運ぶ列車。あまり緊迫感はございません。けれどもこの物語では相当、緊張させられる場面が目白押しとなります。
実は何を運んでいるかはわかりません。けれどもかなり曰く付きのものであることは序盤から明白です。けれどもそこが作品のポイントではないのです。それを取り巻く人間模様がとても面白く、作品の中心となっているのです。何かはわからずに使命感に駆られ必死に運ぶJRの人たち。スクープの匂いをかぎつけ真相を明かそうとする記者たち。何かを知って列車の運行を妨げようと画策するものたち。そして視点がこの3点に次々と変わるため、読み手としては誰に肩入れしていいかわからなくなります。もちろん肩入れしなくてもよいのですが(^_^;)。我々の頭の中に何かよからぬ事が浮かんできて、最悪のリスクを考えてしまいます。そしてそのリスクに対してこの3点の関わり方にハラハラドキドキさせられることでしょう。
そして徐々に明らかになる運んでいるものの正体。それにつれて、それぞれの事情が交錯し、妙な三つ巴の争いが繰り広げられるのです。そこに何が善で何が悪なのかという答えはないのでしょう。それぞれがそれぞれの立場で信念を持って動いているだけです。真保さんの上手さはここにありますね。今回はこの3方が等しく語られていたので、あまり偏見などは持ちませんでしたが、「震源」などでは、この視点操作のおかげでラストの大どんでん返しに持っていかれましたからね。
真保さんはドラえもんの脚本なども手がけられる稀代のストーリーテラーですが少々意地悪なところがありますね。それが効果抜群であることを知ってのことでしょう。なんだか、本当にありそうなストーリーでもあったし、これはこれで今回も楽しむことはできました。けれどもカタルシスを得る事はできなかったかな。あ、そういう小説ではないもんね。
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世 界 観 ★★★★
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