【2006年読書ランキング】で褒める

2006年読書ランキング





  1. 『明日の記憶』荻原浩
  2. 『OP.ローズダスト』福井晴敏
  3. 『愛の流刑地』渡辺淳一
  4. 『容疑者Xの献身』東野圭吾
  5. 『狼花~新宿鮫Ⅸ~』大沢在昌
  6. 『赤い指』東野圭吾
  7. 『翳りゆく夏』赤井三尋
  8. 『空白の叫び』貫井徳郎
  9. 『中村邦夫は松下電器をいかにして変えたか』財部誠一
  10. 『蓬莱』今野敏
  11. 『無痛』久坂部羊
  12. 『人を動かす人になれ!』永守重信
  13. 『約束』村山由佳
  14. 『星宿海への道』宮本輝
  15. 『できればムカつかずに生きたい』田口ランディ

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「明日の記憶」荻原浩

読中読後幾度となく涙が溢れる感動作。物語の持つ雰囲気は東野圭吾さんの「秘密」にも似ており、日常的な様子が描かれている。どこにでもある家庭に訪れる突然の悲劇。記憶が失われる恐怖。その中で生み出される人間同士の心の交流に誰しも胸震わされる。作品の結び方も美しく超一級品。

②「OP.ローズダスト」福井晴敏

福井晴敏さんの乾坤一擲の一作で代表作「亡国のイージス」の世界観をも引き継いだ壮大な作品。練りに練られた世界観、これでもかと繰り返される虚々実々、信じる事の虚しさと素晴らしさの同居・・・。その深い内容の根底にあるのは登場人物たちの持つ熱すぎる「心」だった。

③「愛の流刑地」渡辺淳一

日経新聞に連載されていた小説で当時から何かと物議を醸した官能的作品。過激な性描写と卑猥な表現に眉をひそめる読者もいるだろうが、裁判で語られる男女の愛は圧倒的で説得力がある。人間の心はこれほどにまで崇高かと思わされた。このテーマにして、このラストは見事と言う他ない。

④「容疑者Xの献身」東野圭吾

東野圭吾さんにとって積年の悔しさを晴らす念願の直木賞受賞作。ガリレオシリーズ初の長編。驚くべきトリックに裏打ちされた切ないまでに激しい「献身」を見せつけられる。読中はパンチに欠けるかに思えた展開は結末で大きく舵をきる。完成度は非常に高く、納得の受賞作品として今なお人気。

⑤「狼花~新宿鮫Ⅸ~」大沢在昌

ハードボイルドの決定版・新宿鮫シリーズの第9弾。ここ数回はやや盛り上がりに欠けマンネリ化が見られていたが、見事に再浮上。「毒猿」「無間人形」に勝るとも劣らない優れた出来だった。鮫島と裏社会のカリスマ・仙田との対決のみならず、ライバルキャリア・香田との信念のぶつかり合いも読み応え十分。

⑥「赤い指」東野圭吾

直木賞受賞後、最初の書き下ろし作品は加賀恭一郎シリーズだった。シリーズを重ねるつれ加賀の冷たさが映し出されるような傾向にあるが、今作でもその路線は続いている。しかし松宮との決着では、そんな加賀の人間味溢れる一面を久々に見る事ができて、心温まるものになっている。

⑦「翳りゆく夏」赤井三尋

正統派のミステリに叙述トリックを織り交ぜた乱歩賞受賞作品。リーダビリティに優れ、物語を一気に読ませる文体は活字に抵抗がある人でも読みやすいのではないか。虚構と現実の垣根を越えるミステリの持つ魅力をふんだんに盛り込んだ良作。

⑧「空白の叫び」貫井徳郎

横行する少年犯罪、その心の闇に迫る問題作。核心はつけなかったが、深層心理と事件事象や時空などを見事にミックスさせて描ききったパワフルな構成ととっている。読後の納得できないような消化不良感こそ、若者の停滞した心の動きを証明しているかのように思える。

⑨「中村邦夫は松下電器をいかにして変えたか」財部誠一

経営のV字回復について様々なカリスマ経営者が数多く出ているが、パナソニックの前身松下電器を復活させた中村邦夫氏の功績も計り知れない。プラズマTVの攻防などには、過去を破壊し改革を進めるという当時の松下では考えられないような英断を下した。それは結果として松下幸之助のイズムを継承するものだった。

⑩「蓬莱」今野敏

シミュレーションゲームを題材に冒頭から超高速に事件が動いていく。その面白さは洗練されており、ゲーム好きな読者は夢中になるだろう。シリーズキャラで有名な安積警部補も絡み物語はスピーディに展開する。謀略についてはやや考えすぎだが、テンポの良さがカバーしている。

⑪「無痛」久坂部羊

当時彗星のごとくあらわれた久坂部羊さんの挑戦作。帚木蓬生さんと同じく現役の医師であり、実際の医療現場が抱えている問題点をうまく浮き彫りにすることで話題になった。荒さは目立つが、二人の天才医師の方向性の違いを並び立てて、そのジレンマと事件性をうまく融合させた興味深い小説。ドラマ化もされた。

⑫「人を動かす人になれ!」永守重信

精力的にM&Aを続けた日本電産は一躍有名となり、永守式経営は一世を風靡した。ただ買収するだけでなく、その会社を再生させるという手腕は世間があっと驚くものだった。大法螺を吹き、それを実現するために血みどろになって邁進する姿勢は停滞する日本経済に活力を与えた。5Sの徹底の厳しさはいまだに有効。

⑬「約束」村山由佳

児童書のような小さな物語なのだが、詰まっている思いはとても大きい。「約束」という言葉の意味を再確認させられる。回顧録のような語りは読者の心を切なく揺さぶる。見逃せない言い回しも多く、引用したい言葉がたくさん散りばめられている。イラストも作品の魅力の一翼を担っている。

⑭「星宿海への道」宮本輝

宮本輝さんならではのとても美しく完成度の高い作品。文章が紡ぎ出す幻想的な世界は読者を惹きつけ物語を心に染み渡らせる。平凡なテーマがいつしか非凡なものに変わり。心地よささえ感じる。これこそ大御所ならではの実力であり安定感と言えるだろう。時間の流れもゆるやかだ。

⑮「できればムカつかずに生きたい」田口ランディ

ネットを中心に活躍された田口ランディ氏の痛快エッセイ。この作品を読むだけで筆者の人間性に惹かれる。作者の壮絶な家庭環境から生まれた哲学が言葉の一つ一つに秘められているからだろうか。たとえ考え方が違っていても反感を覚えず、むしろ自らの考えを発展させられるようだった。