【『坊っちゃん』夏目漱石】を薦める

読書のススメ(5分で読めるよ)







言わずと知れた名作「坊っちゃん」。私が薦めなくても、至るところから推薦されるであろう作品ですね。私のブログをお読みの方には読書垢さん達もたくさんおられると思いますが、そういった方々は既に読んでおられるだろうことは想像に難くはありません。けれどもここはもう一度オススメさせてください。私の人生の10選(名刺代わりの10選とは違うのです)にも入るこの名作を私の言葉で褒めてみたいのです。それに、意外と機会を逸して読んでない方もそこそこおられるのではないでしょうか。名作すぎる故の敬遠みたいな。そういった方はこの記事を一つのきっかけとして読んでいただければと思います。

あらすじや内容についてはネットでたたけば数えきれないくらい出てくるでしょうから、私なりにこの作品が名作である部分を考察する形でオススメしたいと思います。

この坊っちゃんは現在に至るまでの「ヒット作」たる要素が詰まっていると思います。「坊っちゃん」の要素をおさえればある程度作品は売れるのではないかと思っています。そして、現代においてこの「坊っちゃん」の要素を色濃く押さえている作家さんは池井戸潤さんだと思います。ではその要素を一つ一つ見ていきましょう。

①ユーモアでコミカルな文体

「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている」の有名なくだりは爆笑物のフレーズで続きます。私が「坊っちゃん」を読んだのは小学五年生の時でしたが、あまりの面白さに塾の国語の先生に報告したくらいです。冒頭は特別面白いのですが、それ以降もクスっと笑えるような文章が散りばめられており「読み進めるのが面白い」と初めて思えた作品ではないでしょうか。だって面白いんですもん。ページをめくる手がとまらない体験もするわいな。こうした読み手の心をつかむユーモラスな文体はリーダビリティを高め中毒性を高め、作家さん自体のファンとなってしまいますね。東野圭吾さんしかり、伊坂幸太郎さんしかり、そして池井戸潤さんしかりかと思います。

②権力とのたたかいの構図

さて「坊っちゃん」は曲がったことが大嫌いなまっすぐな熱血漢です。権力を握って卑劣な仕打ちをしてくる赤シャツこと教頭との戦いがテーマにもなっています。そしてその戦いで得るもの、失うものが出てくるのですが、この選択がある意味読者の選択にもなってくることで、読者参加型の作品が生まれます。実は現在に至るまで権力との闘争というテーマは流行りのテーマでもあり、勧善懲悪が好きな日本人に受ける要素の一つとなっています。池井戸作品に似ているのはまさにこの部分かもしれません。

③随所に見られる愛情・友情の描写

「面白い」「許せない」が目立ちすぎるくらい目立つこの作品ですが、底辺にはとても温かい「友情・愛情」の世界が横たわっています。作品の安心感はここにあります。奉公人として仕えた清は主人公を深い愛情で包み込み、ずっと見守ってくれています。坊っちゃんの味方であり続け、母親のような愛情を傾けてくれるのです。そして山嵐やうらなりと言った教師仲間も最初はウマがあわなかったりするものの、次第に固い絆を結んでいくところは感動ものです。この手法(手法というと汚くきこえちゃうなあ)についても小説のみならずドラマなどでウケるスタイルではないでしょうか。

④登場人物のキャラ立ち

最近のアニメなどを見ていると「推し」を作りやすい作品がヒットしているイメージがあります。本好きの方の中にはシリーズものが好きな方や、有名な作品におけるキャラクターが好きな方が一定数(というか結構多いと思う)おられると思います。そういう意味ではキャラを立てるというのは作品人気を大きく左右する要素だと思っています。(余談ですが私はこの世の全てのキャラクターの中でファイナルファンタジー7におけるエアリスが好きです。加えてザックスが好きです、FF7Rおよび本編しかプレイしていない方は絶対にクライシスコアまでやってみてね)

脱線しました、「坊っちゃん」には敵味方ともに登場人物の色付けがしっかりとなされています。曲がったことが嫌いな“坊っちゃん”、男気があって頑強な“山嵐”、ひょろひょろで頼りない“うらなり”、卑怯者の代名詞“赤シャツ”、赤シャツの忠実なパシリ“野だいこ”、融通の利かない堅物校長“狸”、そして坊っちゃんを見守る愛情深い“清”。この構図、きっと他の作品でも見られるはずですよ。

⑤完璧ではない主人公

大事なのは主人公坊っちゃんが完璧ではないということです。もちろん完全無欠のスーパーヒーローもヒットの要素に欠かせません。最近では呪術廻戦の五条さんのようなチートキャラも人気ですね。ただ時として無敵すぎて感情移入ができないこともあるのではないでしょうか。坊っちゃんの行動は時として間違っています、眉をひそめる言動もあります。最後の最後まで360度正しい行動などありません。だからこそ得られたものだけでなく失うものもあったのです。けれどもそれは今の時代におけるリアル。とても私たちに近しい出来事だと思いませんか。そういう「あるある」なところもヒット作品には見られるような気がします。

これらの事全てを明治初期に打ち立てた夏目漱石の功績は偉大です。当時はそこまで分析が進んでいたわけではないでしょうし、情報があまり入ってこない中、さすが文豪と言うべきでしょうか。それを自身の才能の中で理解し形にしてしまうという恐るべき離れ業をやってのけているのですね。褒めても褒めても褒め足りません。

その他『三四郎』『それから』『門』と続く3部作もとても面白いです。あわせてオススメしておきますね。

レビュー

<読みやすさ>

強引な力技で読者をひっぱる形の読みやすさではなく、単純に文章が平易で読みやすい、組立がわかりやすい、という文豪としての能力の高さが発露の読みやすさを持った作品です。このあたり同じ人生の10選にあげたいユゴの「レ・ミゼラブル」とは真逆のように思えます。どちらも素晴らしいのですが、初心者向け、低年齢層向けはこちらだと思います。

<面 白 さ>

のっけから面白いです。ユーモラスでコミカルな文体で「面白い」と単純に思えます。その後、面白さの質は変わってきます。ストーリーが面白い、人間関係が面白い、構図が面白い、見方が面白い、つまるところ作品として面白いとなるでしょう。こちらから無理しないでも、読み進めるにつれて自然に楽しませてくれる作品です。

<上 手 さ>

さすがの上手さです。本当に上手いとはこういう小説のことを言うのでしょう。決して技巧派というわけではありません。まっすぐな小説を描くという上手さです。そうでなければこんなに世代・時代を超えて読まれるものではありません。またシニカルに闘争は描かれても思想的・哲学的要素がほとんど表立って見られないのも上手さの一つです(実際は体制批判などを暗示していたのでしょうけど)。

<世 界 観>

この小さな学校、小さな人間関係の中に、私たちが読みたいほとんどの要素を詰め込んでいるのが素晴らしいです。“世界”とは大きさ、広さだけを言うのではなく“濃さ”“深さ”も含むのではないでしょうか。また別の意味で言うと「夏目漱石の世界観」というのもあると思います。シニカルな視点でにらみを利かせているような。

<オススメ度>

万人にオススメできる作品ですし、実際オススメされている作品ですよね。私たちが義務教育の中で一度は耳にする作品でもありますし、教科書に掲載されているところも多いのではないでしょうか。読書感想文の課題図書にもなるでしょうし、各社の夏の選書に必ず入っている作品ですから、私がとやかく言わなくても大丈夫でしょう。