【『長流の畔 ~流転の海 第八部~』宮本輝】を褒める
読了後の感想(2分で読めるよ)
『流転の海シリーズ』も8作目を読み終えました。残すところあと1巻ですね。ここへきて松坂熊吾にとっての逆境はますます厳しいものになってきたように思います。前回7作目の感想でも述べましたが、それに反比例して房江や伸仁の主張がとても強くなってきており、もはや、3人の主人公を同時に追っかけているかのようです。何より今作では熊吾と房江夫婦の間に大きな溝ができてしまいます。これまでも幾度が衝突があったとは言え、根本では互いを信頼し続け固い絆で結ばれていたこの二人ですが、今回ばかりは大きな禍根を残したように思えます。またそれを見つめる伸仁もすっかり大人になっており、それに対する自身の態度をきちんと固めているような強い意志を感じまう。もはや1~3巻にあったような熊吾1強(この言い方が相応しいかどうかはわかりませんが)は一体どこへやら。文章的には描かれていないものの“たじたじ”になる様子が見て取れます。
同時に仕事においても人間関係においても熊吾は冴えません。もはや老いてしまい、かつてのようなビジネスチャンスをかぎつける嗅覚は失われてしまったのか、はたまたそもそも以前から人間を見抜く能力は実は無かったのではないか、読者ならずとも外ならぬ熊吾自身が自問自答する日々を送ります。思えば熊吾のやり方が通用した時代から無理はたたっていて、時代とともにその歪みが露見してきたようなものかもしれません。これは働き方改革が叫ばれ、コロナ禍でテレワークなどがすすみ、ダイバーシティの考え方によって昭和・平成の働き方が今となっては大いに批判されるようになったことと似ているような気がします。戦後の高度成長を批判していた新世代と呼ばれた若者たちが、今度はミレニアル世代・Z世代によって批判される立場にたってしまったとき始めて、「じゃ、どうすればよかったのか」と悩むのに非常に酷似しているように私は感じます。そしておそらくこのミレニアル世代・Z世代も30年~40年経ったころには、次なる世代に批判されているのかもしれませんね。そういった世代間のズレなどもこの作品を通して知ることができるように思います。あたかも歴史を学んでいるかのようですね。
すでに最終巻となる『野の春』も3分の1ほど読んでいます。これ、本当にこの9作目で終わるんでしょうかね。残り3分の2でまとめられるように思えないくらいなのですが(^_^;)
簡易レビュー
読みやすさ ★★★★★
面 白 さ ★★★★★
上 手 さ ★★★★★★
世 界 観 ★★★★★★
オススメ度 ★★★★★★
長流の畔 ひょうちゃん作目次
*勘のいい人にとってはこの程度でもネタバレになるかもしれません。
もし不安であればこの先は見ないでください。
第一章 熊吾の事業の新展開
第二章 松田茂の母
第三章 東尾による松坂板金塗装経営
第四章 浮気の露見
第五章 別居生活
第六章 房江の決意
第七章 東京オリンピックの頃
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