【『この恋は世界でいちばん美しい雨』宇山佳佑】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)






「桜のような僕の恋人」で一躍有名になった宇山佳佑さん。感動づくりがとても上手く、読みやすい文体が特徴です。でもその読みやすさはとても脆く危ういもののように思えてなりませんでした。今作でも同様の危うさを感じた理由がどこにあるかも考えながら読み進めたところがありました。

私は読みやすい文章にもいくつか種類があると思います。一つはとても上手い文章。これは圧倒的な筆力によって読み手を物語の中に引き込むことで読みやすいと思わせることができています。次に惹きつけられる題材を軸とした文章。こちらはテーマそのものに読み手がくいつき結果として読みやすいと思わせてくれます。そして今回あげたいのが平易な文章、誤解をおそれずに言うならば幼い文章。小学生が平易な文章を読めるのはこの理由によるものでしょう。ただこの平易な文章は本当に技術が無い場合と、技術はあるけれどもあえて平易にしている場合とにわかれます。わかりやすく言うと絵本などは技術がありながらあえて平易にしていると言えましょう。けれども小説においてはどちらにも転びそうで、そのことも危うさにつながっているような気がします。宇山さんはどうなのでしょうか。結論から言うと、私は宇山さんがある程度確信犯的に文章を平易にしていると思えました。

そして平易故に多くの読者の心を掴み、そして簡単に感動させているように思うのです。けれども平易が簡単かというとそうではありません。実は平易な文章はその分、読んでいくうちに溜まっていく感情移入の蓄積やカタルシスへの貯金ができにくいのです。軽い感動はお手の物でも大きな感動にはつながりにくいのではないでしょうか。それがライトノベルにもよく見られる気がします。宇山さんの今作において序盤はわざとらしく、そして退屈にも思えます。「蓄積されないなあ」と感じながら読み進めていました。けれどもそのハンデを秀逸な設定で補っているのです。これは凄い事です。この設定というのはずるくて設定してしまえば何でもありですし、作者さんの思い通りのルール作りができてしまいます。その分あまりに都合の良すぎる設定に読者は白けてしまうでしょう。宇山さんはこのバランスがとても絶妙です。正直、文体はあまり好きではないですし、いささか鼻につくような流れも感じないではないです。けれども最終的にはこの設定にうまくはまるから感動も軽くはなく、思わず涙もこぼれるってもんです。

今回は抽象的な感想ですね。感想というより考察でしたね。

最後に単刀直入な感想をもう一つ、ちょっと詰め込みすぎ、欲張り過ぎ、ぎりぎりだよ、でも成功してるよ。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★

世 界 観 ★★★★★

オススメ度 ★★★★