【ベラスケス】を褒める

2022年8月10日

<独自の写実主義的陰影法を編み出した宮廷の成功者>

バロックの4大巨匠と言えば、フェルメール、レンブラント、ルーベンス、そして今日取り上げるベラスケスとなるでしょう。他の3人の画家については既に褒め記事を出していたものの、最後まで残ってしまっていたベラスケス(ファンの方、ごめんなさい)。今回は、私の褒め記事を熱心に読んでくれているフォロワーさんの“くらげさん”のリクエストもあって、取り上げることにしました。記事を考えている中で4大巨匠揃い踏みと気づきました、あらためてくらげさん、ありがとう。

今日は少し趣向を変えて、ベラスケス本人を褒める前に師匠のパチェーコさんも褒めておきましょう。ベラスケスの最初の師匠は父親でもあったわけですが、頑固であまり評判もよくなく、実際の師匠はこのパチェーコさんとなります。このパチェーコさんはとても温かい人でベラスケスを大きな愛で包み込んでくれただけではなく、早くからベラスケスの才能を見いだし、自身を超える才能の持ち主であることを受け入れた上で、指導してくれた人なのです。また自分の娘のフアナをベラスケスと結婚させ、その後も良き理解者として傍に居続けてくれたのです。何が凄いって、このときベラスケス18歳、フアナは15歳、その後17歳で子供を産むというのだから驚きです。パチェーコさんが絵だけではなく、生活面全てを見守ってくれていたことを褒めておきたかったのです。

さて、ベラスケスですがこのパチェーコの庇護もあり、すぐに才覚をあらわします。24歳のときにはすでにフェリペ4世のお気に入りとなり、宮廷画家として迎えられます。あまりに早い出世に周りの画家のやっかみが酷かったようですが、その後のコンペで周りを黙らせその地位を不動のものとします。若くして成功したという点、そしてその後の順風満帆な人生はどこかしら、完璧すぎる画家・ルーベンスによく似ていませんか。実はこのベラスケス、ルーベンスととっても親交が深かったのですよ。それどころかこの完璧なルーベンスをして「ベラスケスはヨーロッパ最大の画家、その作品の謙虚さには誰も敵わない」とまで言わしめたのです。これは凄い、私が褒めるのではないのですよ、ルーベンスが褒めているのですよ!こうしてスペイン最高の画家の一人として評価されることになったのでした。

その後、宮廷の要職に就いた彼は、国の要人としての仕事が忙しくなってしまい、制作活動に時間を取る事が難しくなっていきます(これって黒田清輝さんの境遇に似ている)。しかも元来遅筆であったベラスケスは結局150点程度の作品しか残す事ができなかったのはとても残念ですね。

さてそれではベラスケスの作品について褒めていきましょう。彼は肖像画を得意としており、フェリペ4世にとりあげられたのも肖像画を評価されたからでした。彼はモデルに泣かせたり、笑わせたり、怒らせたりと様々な気持ちでの表情を描いていたようです。これが“表情を描く肖像画”と脚光を浴びたのです。通常モデルはあまり表情を出さなかったりするものですが、これについてベラスケスの追求は内面の世界にまで及んでいたのです。こういった発想にはただただ脱帽するしかありません。

しかし冒頭に述べたようにベラスケスは決して肖像画だけの画家ではありません。彼は仲の良かったルーベンスとルネサンス期の巨匠ティツィアーノに大きな影響を受けていました。当初は絵の具を塗り重ね彫刻のような絵を描いていたベラスケスが、ティツィアーノの作品との出会いにより軽やかなものへと変わっていくのです。そして彼の追求はやがて「写実主義的陰影法」という独自の手法に繋がっていくのです。これは近くで見るとぼやけているのに、遠くから見ると完璧な絵になるという手法です。印象派の父・マネはこれに感銘を受け、彼のタッチもベラスケスに近いものになったようです。「宮廷道化師セバスティアン・デ・モーラ」「道化師フアン・デ・カラバサス」「彫刻家モンタニェース」などを見ていただければわかってもらえると思います。(ん~、画像だとわかりにくいかな・・・)

  

最後は名画「ラス・メニーナス」を褒めさせて下さい。

バロックの4大巨匠はそれぞれ代表的名画を持っていますね。これはいつか【バロックを褒める】みたいな記事を書いてみようかな(未定だよ)。フェルメールの「牛乳を注ぐ女」、レンブラントの「夜警」、ルーベンスの「十字架降下」、そしてベラスケスの「ラス・メニーナス」。この絵は実は3メートルの高さを誇る大きな作品です。そこに描かれたのは幼い王女、そして国王夫妻、怪しげな侍女、そしてベラスケスの自画像です。もちろん主役は王女ですし、この王女の絵をたくさんベラスケスは残しています。けれども国王夫妻を描いたのもなかなか凄いことなのですよ。当時は国王夫妻のツーショットという形で絵を描くことは良しとされていませんでした。そのためベラスケスは鏡に二人が映ったという設定で、この二人のツーショットを実現したのです。また数々の道化師を描いたベラスケスはハンデを持つ方が多かった道化師の姿もありのままに映し出しています。加えて自身を描き込むことでこのシーンを別の角度からの視点という意味を持たせ、今の時代における別の視点でのカメラワークを実現させたのです。数々の緻密な計算によって完成された「ラス・メニーナス」は“絵画の神学”とまで言われる高い評価を得ることになったのです。ベラスケスの功績は計りしれず、大天才ピカソもこの「ラス・メニーナス」を描いているほどです。

おすすめ10選

『ラス・メニーナス』

『ブレダの開城』

 

『宮廷道化師セバスティアン・デ・モーラ』

『鏡のヴィーナス』

『青い服の王女マルガリータ』

 

『白い服の王女マルガリータ』

 

『バッコスと仲間たち』

 

『東方三博士の礼拝』

 

『彫刻家モンタニェース』

『教皇インノケンティウス10世』