【ダリ】を褒める

<理性ある狂気をまとった本物の奇才>

ダリも日本に多くのファンを持つ画家の一人ですね。それにしてもピカソしかりムンクしかりですが、日本人が結構難解な絵に対して理解を示すことに驚きます。それだけインパクトがあるということなんでしょう。

ダリについて詳しい説明は必要ないのかもしれません。シュルレアリスムを代表するような画家であり、絵画のみならず様々な芸術分野において彼のアートが発揮されています。最近の画家だけに写真も多く残されており、長いひげをピンと伸ばし先っちょをクルリと巻いているひょうきんな男性、おどけた表情をしたその男性こそダリです。

ダリは敬虔なクリスチャンの家庭に生まれます。彼の名前サルバドールは実はダリの生まれる前に亡くなってしまったお兄さんの名前であり、両親は彼を兄の生まれ変わりのように溺愛したとのことです。けれどもダリは自身に向けられている愛情を素直に感じ取れなかったとも言いますからちょっと哀しいエピソードではありますね。彼は後に一番の理解者である妻・ガラを伴侶として迎えますが、ピカソとは違ってこの奥様を本当に大切に愛します。それはこのような背景がダリの家族に対する愛情に影響を与えていたのかもしれませんね。

さてそんなダリですがその奇才ぶりは少年の頃から際立っていたようです。幼い頃から油絵を描きその才能を発揮する一方で、奇行を繰り返すダリは『非凡だが異常』とのレッテルを早くから貼られることになります。けれどもダリはそのレッテルを気に入っていたというから流石ですね。もちろん学校教育におさまるわけがありません。彼はその後フロイトの『夢判断』を読み強い影響を受けることになります。すなわち「意識下の世界を探る」ことに夢中となるのです。精神世界をいかに表現するのかということを模索する彼にとって、美術学校における模写は退屈なものだったでしょう。ついには学校を批判し退学させられてしまいます。

ダリにとってはこれが良かったのか悪かったのか、とにもかくにもダリの才能はここから一気に加速していきます。彼は幻覚によるエネルギーに取り憑かれ「狂人のように絵を描きたい」と残しています。一歩で「狂人のようになりたいが、狂人ではない、私は狂っていない」とも残しており、芸術家としての自身のエネルギーの源がこの狂人の状態にあるということを示しています。私がダリを好きな一面でもあります。彼は日常生活において決して非常識だったわけではなく妻を愛する一人の常識人だったのです。彼はこの後、自身の行く道についてもとても真っ当な人生を送る選択をしていきます。

例えばダリを高く評価していたピカソに最初傾倒するも、キュビズムの限界を感じたダリはそのまま突き進むことなく、今度はピカソの友人でもあったミロに会っています。さらにはシュルレアリスムの代表的な画家となりながらも、リーダー格のブルトン(シュルレアリスム活動の宣言者)と一旦は合流しながらも、全く意識のない状態で作品を作るというブルトンの主張とは真っ向から対立し、結果として決別し自身の“偏執狂的批判的方法”を編み出して、古典主義への回帰を図るのです。ちなみに“偏執狂的批判的方法”ってなんやねん、わからへんわ(^_^;)ということでちょっと調べてみましたが、間違っていたらごめんなさい。簡単に言うとだまし絵ですね(本当に間違ってたらごめんやで~)。一つの絵を描いているようで、二つの見え方をするダブルイメージ。おすすめ10選の中でいうと『スペイン』がわかりやすいかもしれません。砂漠のようなスペインの大地を遠目にみると女性が棚に手をかけてもたれているように見えてきます。けれどもそこに登場している人物たちは写実主義さながらにとても忠実に模倣されているのです。

ダリの絵は描かれたモノが何であるかは誰にでもよくわかるシンプルさがあります。一方でその絵が何故描かれたのか、あるいは何を暗示しているのかはとても難解です。その難解さこそが見るモノに想像をかきたてる自由を与え面白みを与えているように思います。『記憶の固執』は時計がぐにゃりと曲がっている絵なので知っている方も多いと思いますが、あれは間違いなく時計の絵です。ダリはこれをカマンベールチーズを食べているときにヒントを得たと言っています。そこまではわかります。けれどもこの絵が何を暗示しているのかは明確になっておらず、様々な解釈が論じられています。

さて、ダリの最後の褒めポイントは奥さんのガラとのエピソードにしておきましょう。ダリはガラに絶対的な献身を示しました。彼が狂気を演じ作品に没頭し自分を見失いそうになるとき、必ずガラが安らぎを与え現実世界に引き戻してくれました。またガラを通してインスピレーションが与えられ続け、それを証明するかのように彼女の死後ダリは創作活動を完全に停止するのです。ダリは奥さんと二人三脚でこの世に作品を送り出していたのですね。こんな素晴らしいおしどり夫婦の姿を奇行ばかりが目立つダリによって教えられること、本当に心に刻まれました。私たちはダリだけでなくガラのことも褒めなければなりませんね。

おすすめ10選

『聖アントニウスの誘惑』
『スペイン』
『記憶の固執』
『ナルシスの変貌』
『ホメロス礼賛』
『生きている静物画』
『サンフアンデラクルスのキリスト』
『幻の荷馬車』
『建築学的ミレーの晩鐘』
『テーブルになるフェルメールの亡霊』