【『ぼくにもそのあいをください』宮西達也】の絵本を薦める

読書のススメ(2分で読めるよ)

今回のオススメは絵本です。絵本だからといって侮ることなかれ。大人にも十分すぎるほどに読み応えのある作品が多数あるのです。読書垢の皆さんの中には絵本ファンもたくさんおられると思うので釈迦に説法かもしれませんが、本当に涙腺緩むものが多いんですよね。今回は私の2007年の年間ランキング4位とした絵本『ぼくにもそのあいをください』をおススメさせていただきます。この作品は絵本作家として有名な宮西達也さんの『ティラノサウルスシリーズ』うちの一作です。私の知っているところで15作品出ているのですが、どれも素晴らしいです。一つ一つは独立しているのでどこから手にとっても大丈夫なのですが、特におすすめしたいのが『ぼくにもそのあいをくください』なのです。今回はあえてネタバレしながら紹介する予定です。何故なら、この作品はネタバレしていても感動できるからです。というよりネタバレが致命傷にならないと思うからです。それでもネタバレは嫌だという人はこれ以降は読まず、ここでタイトルだけをインプットしておいてくださいね。

 

以降、ネタバレを含んだ紹介となります。

 

強大な力を持つティラノサウルスは「力あるものが一番」という考え方のもと、暴れまわって弱い者いじめをする毎日でした。しかしながら年をとつに連れてその力に陰りが見えてきて、やがてティラノサウルスが最強の時代は過ぎ去り、いつしか皆ティラノサウルスのことをバカにしはじめ、ついには忘れられてしまう始末。そんな弱くなってしまった状況に耐えられずティラノサウルスは誰もいないところに行こうと逃げるのでした。けれども道中、けがをして倒れてしまうティラノサウルス。そこへやってきたのはトリケラトプスの子供でした。ティラノサウルスにとってはごちそうが向こうからのこのことやってきた状態です。飛んで火にいる夏の虫といったところでしょう。そんなティラノサウルスにトリケラトプスの子供は「大丈夫?」と言いながら怪我をしたしっぽをさすってくれるではありませんか。そして「こんなところで寝ていると、恐ろしいタルボサウルスに食べられちゃうよ」と声をかけるのでした。ティラノサウルスからしたら屈辱ですね。本当に恐ろしいのは自分であって欲しいのに、何も知らないトリケラトプスはタルボサウルスが怖いと言うのですから。同時に寂しさも覚えた事でしょう。今の自分は恐怖の対象にもなっていないことを突き付けられたわけですからね。それでもなんとか誘導しながら自分の名前をトリケラトプスが口にしたときは思わずハグしてしまいます。ティラノサウルスのこの喜びって承認欲求そのものですよね。さあ、喜んだところでこのトリケラトプスの子供をいただこうとするティラノサウルス。けれども友達にもあって欲しいという言葉を聞いて、もっとたくさんのごちそうにありつけるとばかり、食べるのを我慢して友達のもとへと向かうことにするのでした。

ところがところが、いざ友達に会ってみると、皆がティラノサウルスに無邪気に甘えてくるではありませんか。彼らは一度も見た事がないティラノサウルスを怖がることもなかったのです。むしろ強くてかっこいいお兄さんが来てくれたとでも思ったのでしょう。なついて抱き着くティラノサウルスの子供たち。それだけではなくティラノサウルスの怪我に気づいた子供たちは怪我を治そうと必死になって色々やってくれるではありませんか。ここでティラノサウルスの心が動き始めます。「おれのためになんでそこまでしてくれるんだろう」と心が氷解していくのです。けれども子供たちは「おじさんみたいに強くなりたい」と言うのです。それはかつてティラノサウルスが口にしていた言葉そのものでした。かつて大切にしていたものでした。「ちがうんだ、このよでほんとうにたいせつなことは・・」そう言いかけたときに、突然あらわれたギガノトサウルス。今やティラノサウルスより恐ろしい存在がトリケラトプスの子供たちに襲い掛かります。ティラノサウルスは必死になってトリケラトプスを守ります。もはや衰えて力のなくなったティラノサウルス。それでも身を粉にしてトリケラトプスを守るティラノサウルスですが、やがて・・・。

時が過ぎて子供だったトリケラトプスも大人になり父親になったとき自分の子供に語り掛けるのです。「いいかい、ちからよりももっとたいせつなものがあるんだ、それはあい」それを聞いた彼の息子はいいます

「ぼくにもそのあいをください」

宮西達也さん ティラノサウルスシリーズ