【マグリット】を褒める

≪現代に至るまで様々な分野で影響を与え続けるシュルレアリスムの巨匠≫

マグリットに対する皆さんの印象ってバラバラなように思います。「平和を象徴するような絵を描いているよね」「なんだか気持ち悪い絵を見たよ」「正直意味が分からなかったんだ」「とてもキャッチーでコマーシャルで見かけるような楽しい絵でしょ」とまあ、この統一感のないこと。でもどれも当たってますよね。それこそピカソがピカソらしいと言われる絵以上に違った作風の作品を残しているように、マグリットも時代によって、依頼内容によって、自らの信念によって、大きく作風を変えた画家です。しかしながら、作風が変わってもマグリットの作品に通ずる統一したものがあります。それは精神世界の具現化です。具現化の方法やスタイルが変わりはしたものの、心の奥底に眠る世界観を作品に投影するという姿勢は生涯変わることがありませんでした。そしてそのスタイルの模索がマグリットの画家人生そのものであり、印象派からキュビズム、シュルレアリスムへとたどり着いた原動力でもあったのではないでしょうか。

う~ん、文面にすると難しいなあ、作品を眺めながら感性の世界で「うんうんそうだね」って共有したいよ~。いつもと違ってなかなか、画家や遍歴からアプローチするのが難しいので、4つほどポイントをあげて褒めていきたいと思います。

①不在の表象

精神世界には様々な感情が渦巻いています。喜び、悲しみ、希望、不安、これらのものを具現化する中で前述のような様々な作品が生まれるのはあるいみ当然ですよね。そういう意味でも皆さんの印象は間違っていないのです。結果としてシュルレアリスムが表現するところは、夢、脅威、想像、無意識、狂気、偶然などですが、日常生活における謎や非現実的なものを表現できる最適な手法だったとも言えるのです。そもそもマグリットが幼い頃、愛する母親が自殺をしてしまっています。この影響かマグリットの作品には顔のない人物画が多く残されています。そしてマグリットのテーマの一つにこの「見えないもの」に対する追求、こだわりが常に見られています。不在の表象として「白」「透明」「無(描かない)」「置換(別のものへの置き換え)」などなど。『白紙委任状』という作品は見える部分と見えない部分を交互に描き分けています。この結果、現在にもだまし絵や子供のおもちゃ(ずらし絵)に使われているような手法を完成させています。サムネ画像がそれです。

②コラージュ

精神世界を表現する手法は様々ありますが、大きく二つに分けることができます。一つは、写実化にとらわれず偶然や無意識の表現に終始する抽象絵画。これは見た目には何を描いているか全くわからない作品が多いですね。ミロやカンディンスキー、モンドリアンらが有名です。そしてもう一つはマグリットの他、ダリやシャガールに代表されるシュルレアリスム。彼らはあり得ない組み合わせや、一部の置換を行うことで奇妙な作品を生み出しています。これは後にコラージュという手法で広告やコマーシャルなどにも多用され、現代社会を代表する表現方法として、いつのまにか大衆化したほどです。これがマグリットのキャッチーなイメージに繋がっているのではないかと思います。『大家族』に見られる鳩の絵がまさにそれです。そしてコラージュの世界はシュールな世界観の表現から、面白おかしい画像ネタに至るまで幅広く活用され、一大ムーブメントを巻き起こすにまで至りました。これを意図したかしていないかはわかりませんが、マグリットただものではありません。

③メタモルフォーゼ

メタモルフォーゼ(変身)もまたマグリットが好んだ手法の一つです。ダリも得意としていますね。人魚やミノタウルスはまさにそのものでしょう。マンガでいうと「寄生獣」などはこの手法の産物だと勝手に思っています。通常の様態がある一部分だけ変容している様は、あり得ないものでありつつも、精神世界においては普通に登場するものでもあります。むしろ縛りのない精神世界だからこそ自由に描かれる姿でもあり、それをこの世の中に実体化させるとするならば、もはやそれは写実的であるとも言えますよね。日常性の壁を破るその表現に人々は驚きつつも、いつか見た夢や幻想の中にあるサイケな世界を実は受け入れるものなのかもしれません。

④ルノワールの時代

これだけ特徴的な作品を描きつつも、後年マグリットはルノワールの作品と見間違うほどの画風を見せるのです。というか、注意してみなければ誰もが「ルノワールの絵だ」というに違いないような作品です。その筆触はとても柔らかく、その色彩は温かく明るい。けれどもよくよく作品を眺めると「マグリットしかありえない」という作品なのですから物凄い。どれだけ褒めても褒め足りないです。まずは、よくもまあルノワールに寄せて描けるなということで褒め、その技術力も褒め、そんな中でしっかりとシュルレアリスムを表現していることも褒め、その発想に褒め、とにかくマグリットの豊かな才能に感服です。そもそもピカソもそうですが、もともと写実絵画も描ける十分な技量を持っているのです。改めて、前衛芸術家たちのクオリティの高さを知らされます。ただしこのアプローチはシュルレアリスムの旗手であったブルトンとの間に確執を生み、世間の評判も決して芳しくなかったことは残念でなりません。

おすすめ10選

『大家族』

『白紙委任状』

『第一日』

『黒魔術』

『脅かされた殺人者』

『恋人たち』

『秘密の競技者』

『光の帝国』

『無謀な企て』

『流行のパノラマ』