【レンブラント】を褒める

2022年7月15日

《多方面に才のあった悲劇の天才画家》

オランダ最高の画家とされるレンブラント。とても多才で画家としてだけでなく、素描家、版画家としても多くの作品を残していますし、描いた作品自体も肖像画、風景画、宗教画と多岐にわたります。私は時代とともにレンブラントの評価がどんどん高まっているような気がします。その事が少し嬉しかったりします。
実はロシアにあるエルミタージュ美術館に行ったことがあるのですが、一番印象に残っているのがレンブラントのモデルで妻のサスキアの絵(『フローラに扮したサスキア』)でした。エルミタージュ美術館にその絵があることを知らず、偶然見つけた感激もあいまって少し贔屓目に見るようなところがあったからかもしれません。

しかしその人生は波乱万丈、悲劇の連続だったのです。6人いた子供のうち5人が亡くなってしまい、宗教画へのシフトするタイミングで、母と妻を亡くすのです。50歳で財政破綻を迎え悲しみのうちにその生涯を閉じたのでした。

しかし、彼の素晴らしさはそのような苦境の中でも、信念を曲げることなくむしろ自由に自らの描きたい作品を残したことです。元々、肖像画を評価されていながら、聖書における物語を描き始めた背景には、前述の悲しみの癒しを求めたものとも言われています。自身に降りかかる悲劇を、天を恨むでもなく、静かに受け入れ創作活動にいそしんだのです。これはなかなかできることではないと思います。

さて、では彼が守った信念とはなんでしょうか。描きたいものとはどういうものだったのでしょうか。それは同時期に活躍していたルーベンスとの比較で見えてくるものがあります。ルーベンスの代表的な作品の中に『十字架降下』があります。『フランダースの犬』で主人公ネロがずっと目にしたいと望んだあの作品ですね。その見事な作品は多くの方が心奪われたのではないでしょうか。そこに描かれたキリストは神の子としての威厳と高貴な姿を理想的な肉体美であらわされています。間違いなく後世に轟く名作です。

実はレンブラントも同じく『十字架降下』を描いています。しかしレンブラントのキリストはルーベンスのそれとは全く異なるものなのです。すなわちそこには、だらりと力を失った肉体で単なる醜い屍が描かれていたのです。魂と肉体は別のものであるという考え方からでしょう。

 

ルーベンスの『十字架降下』  レンブラントの『十字架降下』

レンブラントはこのように大袈裟で派手な描写を避けていたようです。事実をありのままに受け止め、物語を凝縮するのがレンブラントの表現でした。そこにはルーベンスへの対抗意識ももちろんあったとは思うのですが、やはり悲しい現実を目にしてきたレンブラントの人生観、宗教観が影響したのでしょうね。私はレンブラントのこのような人間らしいところがとても好きなのです。

その他にも『ペテロの否認』では、キリストの弟子であるペテロが保身のために「キリストを知らない」と否定している、その構図の奥の方に、メシヤであるキリストが悲しそうな目をしてペテロを見ているような描写がうっすらと伺えるのですが、これもまた人間らしい感情の描写が見られて、レンブラントの拘りを感じるようでした。

他の有名な作品には暗い部屋の中にギラギラ浮かび上がるような光の描写が特徴的な『夜警』などがあります。これ、でも実はお昼なんですけどね(^_^;)

おすすめ10選

『夜警』

 

『ラザロの復活』

 

『十字架降下』

 

『ペテロの否認』

 

『フローラに扮したサスキア』

 

『十戒の石板を割るモーセ』

 

『ルクレツィアの自刃』

『放蕩息子の帰還』

 

『エマオの晩餐』

 

『ベルシャザルの酒宴』