【2015年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2015年読書ランキング

  1. 『土漠の花』月村了衛
  2. 『朝が来る』辻村深月
  3. 『下町ロケット~ガウディ計画~』池井戸潤
  4. 『ハケンアニメ!』辻村深月
  5. 『億男』川村元気
  6. 『人魚の眠る家』東野圭吾
  7. 『若冲』澤田瞳子
  8. 『明日の子供たち』有川浩
  9. 『本屋さんのダイアナ』柚木麻子
  10. 『サラバ!』西加奈子
  11. 『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎
  12. 『荒神』宮部みゆき
  13. 『義貞の旗』阿部龍太郎
  14. 『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介
  15. 『流』東山彰良

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「土漠の花」月村了衛

ソマリアの国境付近で、墜落縁の捜索救助にあたっていた陸上自衛隊の精鋭たち。そこに、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んできた。迫力ある筆致で壮絶な戦いを描く。緊迫する心理戦、孤立する絶対絶命の状況の中で、一人の男が状況打破に立ち上がる。ラストの清涼感が心地よい感動を呼ぶ。

②「朝が来る」辻村深月

“母”の存在や“家族”の意味について改めて考えさせられるとてもデリケートな作品。子供を産めない苦悩、子供を手放す苦悩、葛藤の中で要求される決断の連続。多視点で描かれる構成は多くの立場に立った入念な作りで読者も巻き込んで一緒に考えさせ、悩ませてくる。しかし希望の持てるタイトルが印象的だ。

③「下町ロケット~ガウディ計画~」池井戸潤

直木賞受賞作品が医療機器の分野を舞台に帰ってきた。前作の宇宙やロケットといった壮大なテーマから一転、人間の体内で活躍する医療機器を担うことになった佃製作所。立ちはだかる多くの壁に佃プライドの炎が燃え上がる。相変わらず読みやすい文体で読者を選ばない。読後、大きなカタルシスを得られるだろう。

④「ハケンアニメ!」辻村深月

アニメ業界に通じてなくてもその裏側がよくわかるお仕事小説。ぶつかりあう才能、それぞれのこだわり、譲れない信念、職種ごとの立場。ライトノベルでありながら重厚な作品に仕上がっている。辻村ワールドでおなじみの「チヨダコーキ」もうまく作品に絡み、従来からのファンにも喝采を浴びた。

⑤「億男」川村元気

宝くじで3億を当てた男の奇妙な冒険物語。通常、この手の作品では、お金をめぐる醜い欲望や争い、その後の転落人生を面白おかしく喜劇にすることでが多いのだが、本作ではより本質的哲学的な見地からアプローチされている。読中、度々唸らされ、いまだに深く考えさせられている。

⑥「人魚の眠る家」東野圭吾

東野作品にしてはかなり切れ込んだ問題作。これまでも「変身」などで臓器移植などを取り扱ったことがあったが、それとは全く別の視点、もっと深い観点で世論を切り裂くような内容だった。脳死とは、生命とは、科学とは、テーマにきりがない。心臓が動いている、体が動いている、これは生きているということか。

⑦「若冲」澤田瞳子

直木賞候補にもなった正統派歴史小説。取り上げたのは高名な画家の伊藤若冲。その優雅な作品とは裏腹に彼の半生はとても波瀾万丈で驚かされた。当時の京の都の様子や池大雅、丸山応挙ら同時代に活躍した画師たちの生様も交えて語られているから面白い。異母妹との関係も素敵で物語りに厚みを加えている。

⑧「明日の子供たち」有川浩

児童養護施設の色々な人々をコミカルに映し出した快作。仕事に燃える浅慮な新入社員を中心に、児童を見据える先輩社員やこだわりの強い子供たちがそれぞれの立場でぶつかりあっていく姿がとても尊い。答えは簡単には見つからないし、様々あるはずだが、迷いながらも一生懸命前に進み絆を深めていく。

⑨「本屋さんのダイアナ」柚木麻子

少女たちの友情の移り変わりがテンポ良く語られ、どこかしらノスタルジックにさせてくれる佳作。幼い頃は互いの環境が違ってもすぐに親友となれたのに、大人になるにつれ、少しずつすれ違いが生じ、やがて大きな溝となってしまう。その後、試練を乗り越えた二人が迎える活末の感動は忘れられない。

⑩「サラバ!」西加奈子

主人公は男性であるが、西加奈子さんの人生をモチーフとした自伝的小説で直木賞受賞作品。当たり前だが創作的な要素少ないものの、わざとらしさや衒いがなく好感が持てる。それでいて十分ドラマチックだ。流れる展開にとても心躍りわくわくするのは作品の持つ不思議な力だった。

⑪「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎

伊坂作品にしてはシュールなテイストは控えめだった。けれども複数の人間の交錯が楽しめる構成は、伊坂ワールド全開ともいえるし、伊坂さんの真骨頂であった。情けないサラリーマンや恋する青年、苛められていたOLなど、最後はまとめて相関図を作りたくなった。

⑫「荒神」宮部みゆき

今作はただの怪奇作品ではなく、時代小説としてうまく組み合わせて仕上げられている。ところどころ荒っぽい展開が見られたが、むしろそうすることで大作としての風格さえ漂った気がする。藩主側近・弾正と妹・朱音の秘められた運命は悲しく重かった。やはり宮部さんは上手い。

⑬「義貞の旗」安部龍太郎

鎌倉幕府を倒した南北朝の武将・新田義貞。これまで彼について語られる小説はあまりなかったのではないか。その名の通り義に厚く、生き様で周囲に大きな影響を与えた彼の武勇伝はもっと語られてよいだろう。まっすぐな視線で時代を駆け抜けた英雄を描ききった迫力のある一作。

⑭「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介

お笑い芸人・又吉の受賞に沸いたこの年の芥川賞。もう一つの受賞作品がこれ。高齢化社会が叫ばれて久しいが、介護問題や認知症の問題などは依然、放置されたままとなっている。綺麗事を省き、人間の持つ内面のドロドロした部分を浮き彫りにすることで、現代社会の閉塞感を見事に表現してみせた。

⑮「流」東山彰良

直木賞受賞作品で、あたかも大河ドラマを見ているかのような壮大な人間小説だった。「偉大なる総統が死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された」で始まる冒頭で、読者を一気に物語りに引き込む。全体を読み終えると人生の大きな流れを読み手は感じるだろう。それこそがタイトルとなった「流」なのだ。