【2001年読書ランキング】で褒める

2021年10月6日

2001年読書ランキング

  1. 『秘密』東野圭吾
  2. 『宿命』東野圭吾
  3. 『スナーク狩り』宮部みゆき
  4. 『撃つ薔薇』大沢在昌
  5. 『ホワイトアウト』真保裕一
  6. 『聖の青春』大崎善生
  7. 『OUT』桐野夏生
  8. 『冷静と情熱のあいだ』辻仁成・江國香織
  9. 『姑獲鳥の夏』京極夏彦
  10. 『壬生義士伝』浅田次郎
  11. 『あなたには帰る家がある』山本文緒
  12. 『毒猿 ~新宿鮫Ⅱ~』大沢在昌
  13. 『剣士燃え尽きて死す』笹沢左保
  14. 『魔球』東野圭吾
  15. 『麻酔』渡辺淳一

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「秘密」東野圭吾

この作品無くして東野圭吾さんは語れない。設定・展開・描写・構成・結末など全て完璧な珠玉の名作。20年経った今でもこの作品との出会いの感動を忘れられません。コミカルな文体が切なさを余計に募らせる。最後の決断は苦悩や葛藤を反映していたあまりに哀しい。練り出された見事な叙述は現代文学の最高峰。

②「宿命」東野圭吾

数奇な運命を辿る二人の男。苦闘の青春時代を過ごした警官の前に、常に立ちはだかるライバル。彼らの宿命の対決やいかに。ラストの一文に全てが凝縮した名作ミステリ。もはやミステリの域を越えた正統派文学でもある。東野圭吾さん自身もこの一文のために作品を書いたというほど。

③「スナーク狩り」宮部みゆき

人間の心理を見事に操り、最後まで描ききった宮部みゆきさんの渾身の一作。スピード感溢れる世界観で一気に結末までひた走る。驚くべき事件の進行は読み手を全く飽きさせず、ページを捲る手がとまらないとはまさにこの事だ。深い事情と重い選択が余韻を残す。

④「撃つ薔薇」大沢在昌

女性主人公に課された使命は麻薬組織への長期潜入・アンダーカバーになることだった。潜入先で知った過酷な状況。敵味方が全く見えない中で何度も命の危険にさらされる。本当の意味での味方はどこにいるのか。一体誰なのか。彼女の選んだ結末は壮絶なものだった。迫力と哀切のハードボイルド。

⑤「ホワイトアウト」真保裕一

迫力・構成・メッセージなどどこをとっても一級品のエンターテイメント。吹雪荒れ狂う山の描写はリアリティあふれるもので真保裕一さんの緻密さがうかがえる。事件そのものは予想だにしないうねりをもって結末へ向かっていく。無力な一人の人間の奇跡の救出劇。

⑥「聖の青春」大崎善生

重い腎臓病を患い天才棋士と言われつつも29歳の若さでこの世を去った村山聖の生涯を綴ったノンフィクション小説。命がけで将棋を指す彼のために師匠は下着まで洗ったというエピソードには胸が熱くなる。将棋の知識がなくても彼の残した功績がいかに偉大だったか、この作品を読むと火を見るより明らかだ。

⑦「OUT」桐野夏生

深夜の弁当工場で働いていた主婦たちが死体バラバラ事件に関与したのは何故なのか。墜ちていく人間の人生を見事に描いた桐野夏生さんの話題作。扱う内容が重いにも関わらず文体は読みやすく読み手を選ばない。主人公の生き方はクールで強くまさに“OUT”なものだった。

⑧「冷静と情熱のあいだ」辻仁成・江國香織

恋愛小説を二人の書き手が男性側・女性側に分かれて描くという画期的な方法でアプローチ、これが大成功。トレンディでハートフルな作風もさることながら、紡ぎ出される言葉やそれぞれの行動に味がありクオリティは非常に高い。十年の時を越えて交わされる約束は切なくも美しい。

⑨「姑獲鳥の夏」京極夏彦

こまごまとした解説と長い講釈にいささか辟易としたが、現実的・科学的な証明に裏打ちされた怪奇小説というのは新しい。人物設定にも長けており主人公はもちろんのこと取り巻くキャラクターの活躍もとても面白い。20ヶ月経っても産むことができない妊婦の憑きもの落としは実に見事で痛快だった。

⑩「壬生義士伝」浅田次郎

新撰組を取り扱う作品は数多くあれど、吉村貫一郎という無名の隊士を取り上げたものはなかったのではないか。非業の隊士の生涯を、沖田・永倉・斎藤らの活躍と交えて描く。その剣捌きは決して彼らにひけをとらなかった。作中、池田七三郎の語る坂本龍馬暗殺事件の真相は実に興味深い。

⑪「あなたには帰る家がある」山本文緒

直木賞作家となった山本文緒が放つ異色の長編恋愛小説。平凡な男女がどろどろした不倫関係から抜け出せないという展開の中、それぞれの行動はあまりに軽く発展してしまう。最終的に二人が選んだ結末は消化不良だが希望の持てるものだった。結婚の意味を根底から考えさせられる。

⑫「毒猿 ~新宿鮫Ⅱ~」大沢在昌

大沢在昌の出世作にしてハードボイルドの傑作シリーズとなった新宿鮫。元キャリアの鮫島が警察社会に背を向け独自のスタイルで事件を追いかける。その姿は鮫が獲物に食らいつくかのようだった。アクションシーン満載で迫力ある描写が特徴。恐るべき人間狂器との闘いの結末は意外にも熱く哀しいものだった。

⑬「剣士燃え尽きて死す」笹沢左保

新撰組の一番隊長・沖田総司に血を通わせた作品。早世で伝説となった沖田だが、そのイメージはどちらかというとクールなものだった。しかしこのサック品では人間・沖田を浮き彫りにし近藤勇との確執や剣士としての苦悩に着眼している。病に冒されたとはいえ彼の最期が描かれていない理由が読み取れる。

⑭「魔球」東野圭吾

甲子園で活躍したバッテリー。大会後キャッチャーは“魔球を見た”と謎のメッセージを残し刺殺体で発見される。これ以上ないミステリとしてのつかみを軸に、あまりに切ない物語が展開する。犯人が選んだ選択は何を意味していたのか。青春小説としても読み応え十分。

⑮「麻酔」渡辺淳一

妻が昏睡状態に陥ったのは体質のせいなのか。それとも医療ミスなのか。医療問題を取り扱い人間の弱さと限界を巧みに映し出していく。誰に責任があるかというよりも現実をどのように受け止めるかを非常に考えさせられた。医療過誤と家族の絆をテーマにした感動長編。