【竹久夢二】を褒める


<大正ロマンに美を追い求め続けた孤独な詩人えかき>

“えかき”ってしたのは竹久夢二自身がそのように言ってるからなんですよ。自分は画家でも芸術家でもない、“えかき”なんだって。そして詩人とさせてもらったのも夢二の言葉から。「私は詩人になりたいと思った。けれど私の詩稿はパンの代わりにはなりませぬ(←“ぬ”でOK)でした。ある時、私は文字の代わりに絵の形式で詩を画いて見た。それが意外にもある雑誌に発表せられることになつたので、臆病な私の心は歓喜した」

先週の記事で『ロセッティ』を褒めさせていただきました。その中で、作品のために愛人を作り続け、いささかアブノーマルな女性遍歴を辿っていたことにも触れさせていただきましたね。大天才ピカソもそうだったので、正直この展開は皆さんも何度も目にしているでしょう。そう竹久夢二も、それに違わず女性遍歴が激しいのです。もう、ほんとに芸術家ってやつは、ねえ。とちょっと待ってください、皆さま。フォローするわけではないのですが、竹久夢二、自身のことを“芸術家”とはしていません。夢二は「恋愛とは所詮は男と女のエゴであり、理想を追求できるものではない」とも言い、決してそこに芸術との融合を求めるような自己正当化はしていないのです。(実際には大いに影響があったと見られますが)だからどうだという話ではあるのですが、私は褒め屋ですので、今回も竹久夢二の褒めポイントを探りながら、大いに褒めさせていただきます。

竹久夢二は挫折が多くとても孤独で不器用な人物であったと思っています。美術学校に入ることはできませんでしたし、そもそも彼は詩人になりたかったのになれなかったんですしね。加えてデザイナーとして多くの美術装飾を手掛けようとして会社を立ち上げるものの震災によりその活動を満足に行うことができずに撤退。順風満帆な生活とは実は無縁でした。交友関係も広くなく、ひとりで活動することが多かった夢二ですが、その孤独を紛らせるかのように女性を追い求めていきます。最初は妻となるたまきさん、そして永遠の理想となった彦乃さん、最後に愛したお葉さん。けれども前述のように、その関係を創作活動に反映させようとしていたわけではありません。夢二は終生、理想の女性を追い続けていました。同時にこの地上に理想の女性は存在しないと達観もしていました(彦乃さんについては理想だと考えていたようですが、25歳の若さで夭逝しています)。そのため夢二の描く女性の視線に注目してください。その視線が我々と交わることはありません。それはどの作品を見てもそうなのです。これが現実を凝視しないという暗喩にもなっており、永遠に交わることのない孤独も示しているかのようです。ダ・ヴィンチの褒め記事にて『モナ・リザ』がどの角度から見ても視線が合う=理想の女性としたのと対照的ですね。結果として永遠に名作として君臨し続ける『モナ・リザ』と、どこかしら儚さを含有している『夢二作品』の違いを明確にしているかのようです。けれどもこの儚さは、また違った意味の美しさを纏わせているのです。

大正ロマンという言葉をよく耳にします。この時代、複製技術が発達し、マスメディアが台頭してきたのです。それによって挿絵や版画、ポスター、雑誌の表紙などに多くのデザインが使われるようになっていた背景があります。しかしながらそれまでの浮世絵は前時代的だと使用を避けられる中、そこにはまったのが西洋に憧れを抱いたアールヌーヴォーの風潮でした。そこに夢二らのデザインが使われるようになったのです。しかしながら大衆に向けた露出が多いマスメディアではヌードなどのエロティシズム表現はタブーであり、いかにしてロマンティシズムに落とし込むかが挑戦となっていたのです。夢二の作品に儚さとともに色気を感じるのはこのあたりが原因となっているのではないでしょうか。そして当然、その艶はどうしても自身の女性遍歴に左右されてしまったのでしょうか。夢二の作品はたまきさんによって原型を成し、彦乃さんで進化、お葉さんで完結するような作風遍歴ともなったのです。モラルの観点からは意見は差し控えますが、アートとしての変化を見ていくならばやはり素晴らしいとしかいいようがありません。制約のある中で、息をのむような美しさを描き、かつそれが厳しかった当時の多くの人たちの心を掴んで離さなかったのですから。もちろん令和の今でも、夢二の作品は称えもてはやされ、高い人気を誇っています。その証拠ではないですが、今回記事にしたのは、劇団しゃれこうべ所属の原島千佳さんがツイートされているのを見たからです。そこには夢二のデザインのカレンダーが添付されていたのでした。

おすすめ10選

『新少女1915年秋期特別号表紙』

『婦人グラフ1926年1月号表紙』

『女十題 黒猫』

『女十題 朝の光へ』

『ノンキナトウサン』

『雪の夜の伝説』

『紅衣扇舞』

『黄八丈』

『秋のいこい』

『憩い(右隻)』