【『ミカエルの鼓動』柚月裕子】を褒める
読了後の感想(2分で読めるよ)
私にとっては柚月裕子先生の作品は外れなしという印象です。今回もその印象に違わずとても楽しませてもらいました。警察モノなどをとても骨太に描かれる作風が特徴的ですが、今回は医療モノ。これも内容をどんどん深掘りできる上、命を扱うという永遠とも言えるテーマですので柚月先生にあったテーマではないでしょうか。最近はドラマでも医療モノがもてはやされていて、数字をとれるジャンルとして確立してきた感がありますよね。
今回のテーマは機械による遠隔の手術。僻地での医療を考えた時には今後欠かせない技術革新として注目を浴びています。けれどもその機械に欠陥があってしまったらというリスクは拭えませんね。「人間だからミスをする、でも機械はミスをしない」が正しいのか「機械は誤作動や故障を起こしてしまう、人間は誤作動や故障とは無縁だ」が正しいのか、これもまた尽きない議論の一つかと思います。今作ではその両方の立場のスーパードクターが登場します。ある意味、矛(ホコ)盾(タテ)対決とも言えますね。この対決に加えて、院内の思惑が絡み合い、とても複雑に入り組んだ物語となっていきます。
このように描くととても難しいような、読むのがしんどいような思いをさせるかもしれませんが、これが意外や意外にとても読みやすいのです。これは柚月先生の巧みな筆致と無駄に難解な医療用語を使用しない心遣いにあるのでしょう。加えて、これは賛否わかれるところですが、ベタな展開にすることで物語の先はある程度、読者の予想を裏切りません。なんとなく心で描いている通りの展開と結末、登場人物の行動、病院における思惑はどこかで見たような、どちらかというと既視感のあるものだったからです。私は難解で読者に負荷をかける小説はカタルシスを得られるけれども挫折する読者も作り出してしまうと思っています。一方で、平易で読みやすい小説は多くの方に広く読んでいただけるけれども大きな感動や到達感に欠けるとも思っています。どちらかというと今作は後者に部類されると思います。
どちらも価値のあるものですので、好き嫌いになるとは思うのですが、読書が苦手で活字に抵抗感がある方にはおすすめ、読書が得意で活字に全く苦手感のない方はもしかすると物足りなさを感じるのかもしれません。また必然的に世界観はテーマの割にはコンパクトにまとめられており、医療業界全体をまきこむという展開にはややスケールが不足していたように思います。一方で、スーパードクター同士の対決はとても見ごたえがあり、かつ納得感のある結末だったので読後の爽快感は十分感じられたので、読んで良かったと思いました。
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面 白 さ ★★★★
上 手 さ ★★★
世 界 観 ★★★★
オススメ度 ★★★★
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