【ダ・ヴィンチ】を褒める

<人類史上不世出かつ最大級の大天才>

以前から私は美術界における天才を3人あげています。ゴッホ、ピカソ、そしてもう一人がレオナルド・ダ・ヴィンチです。ゴッホは天才というより秀才というべきなのかもしれません。ピカソは間違いなく美術界の天才です。しかしダ・ヴィンチは違います。彼は単なる天才画家という言葉ではおさまりきらない人類史上不世出かつ最大級の大天才であり超人なのです。画家としての比較をした場合ゴッホ、ピカソは決してダ・ヴィンチにひけをとることはありませんが、その他の多くの才を有したダ・ヴィンチの天才ぶりは他の誰であっても比類なきものであったように思えます。しかしながら美術の褒め記事ですからね、今日はできるだけ美術の範囲でお話を進めたいと思っています。

モナ・リザ

美術史において避けて通ることができない作品の一つ、それが『モナ・リザ』です。全世界で一番有名な絵かもしれませんね。何万点もの有名な作品が無造作に置かれているルーヴル美術館にあって、唯一厳重なセキュリティで守られ、ガラス越しにしか見る事ができず、さらにその周りに立ち入り禁止区間を設けているのが『モナ・リザ』なのです。そもそも私が一番素晴らしいと思っている絵画作品こそこの『モナ・リザ』です。この事を言うと「なんだ、色々な作品を見ている割に結局そこに落ち着くのね、つまらない」と言われそうですが、正直言ってこの作品を越える衝撃に出会ったことがありません。しかも子供の頃に「わー、『モナ・リザ』はいいなあ」と思っていたものとは違います。様々な作品を見比べて見比べて、色々自分なりに情報も仕入れた上で、やはり「『モナ・リザ』が一番素晴らしい」と結論づいたのです。では一体どこが素晴らしいのでしょうか。ここからひょうちゃん、褒めまくりますからね。

パッと見は普通です(いや、普通じゃない、パッと見も素晴らしいんだけど)。もしかすると、見慣れてしまって衝撃が薄れた方もいるかもしれません。そんな方はぜひパリに足をお運びください。実際の絵をその目でご覧になってください。 え、簡単に言うなって!? そりゃそうですね。失礼いたしました。 けれどもパリに足を運ばなくても複製画でもネットの画像でもなんでもかまいません。もう一度よく『モナ・リザ』をじっくり見てみてください。目線があってませんか?あってますよね!モデルの女性は潤しく美しいその目であなたを静かに見つめているはずです。では、角度を変えてみてください。どの位置から見ても女性はあなたを見続けます。これがまず素晴らしいです。どうやったらこのように描けるのか本当に不思議です。え、端のほうから見たら目線が合っているように思えなくなるって?そいういう意見も聞きました。では無理しなくてもいいです、他にもたくさん褒めポイントはありますから。

ではその“まなこ(眼)”をしっかり見てください。潤いを感じませんか。それが涙をためているのか、それともそもそもの人間らしい目なのか、はたまた女性の柔らかさを表現しているものなのかはわかりませんが、とにかくあまりにリアルで語りかけてくる“まなこ”なのです。実はダ・ヴィンチ自身の作品の中でも、『モナ・リザ』における眼の潤いは特別です。むしろ他の作品ではこの部分はかなり『モナ・リザ』との差異を感じてしまう部分です。決してダ・ヴィンチの得意な部分ではないように思えるくらい。ですからこの『モナ・リザ』だけに起きた奇跡と思えてしまうのです。

さらにその潤いをそのままに、少し手や指の部分に注目してみましょう。肌の持つ柔らかさが潤しさ同様に伝わってきませんか。女性特有の柔らかさ、それを越えてそもそも人間という動物の柔らかさ、物質ではない生き物としての柔らかさをこれ以上なく感じ取れるのです。そうルネサンス期の作品の多くが「硬質感」を与えてしまっているのです。これは生き物というより神々を描いている意識が強いからかもしれません。どこかしらこの世のものではない美しさを表現してしまっているような感じです。そう、人形の持つ美しさなのかもしれません。

そして女性の後ろに見える背景も素晴らしい。何とも言えない見事な遠近法で風景が静かに映し出されていますが、実はこの風景は創作です。実際の背景とは違うことが明らかになっています。にも関わらずごくごく自然にぼんやりと描き出す技法はとても優れたものと言えましょう。これも面白いのがモデルの女性の右側と左側がずれているんですよね。これっておかしなことなので普通なら気になってしまい作品の完成度を下げるはずなのに、それを感じさせない。どころか何故ダ・ヴィンチがそんなずれをあえて書き込んだのか。大天才ダ・ヴィンチですからミスでないのは明らかです。実は私は確認できなかったのですが、左右を反対に配置するときちんとつながるという、やや遊び的、実験的要素が入っているのです。また遠近法はここに確立したとも言われ、同時期の私の大好きな巨匠ラファエロもこの構図と遠近法で数々の作品を残すようになります。

この潤しさや柔らかさ、風景のぼんやりとした画風はどこから来るのでしょうか。実はこれもダ・ヴィンチの技法の一つ、“スフマート法”によるものなのです。スフマート法とは線・輪郭を描かずグラデーションのみで表す手法です。色調が微妙に混じり合い、溶け合っていくという独自の手法で他の作品とは一線を画し、それこをルネサンス期における独特な画風を確立させたのでした。

そしてモデルの女性のこの角度、これポーズの大流行、ある意味ポーズの始祖ともなったわけですね。少し前だとお見合いなどで使われる写真のポーズや今でも証明写真でプロのカメラマンが指示する角度の多くがこの『モナ・リザ』のポーズです。肖像画や証明写真のスタンダードとなったのはこの作品の影響だと言われています。

さらにさらにこの作品の褒めポイントは続きます。『モナ・リザ』は決して大きな作品ではありません。77cm×53cmという机の上にも飾れるような、どちらかと言うと小さい作品です。この作品にダ・ヴィンチは3年もの歳月を費やして完成させたのです。いや、すみません、完成させていません。なんと『モナ・リザ』は未完とも言われています。手の爪が描かれていなかったり、指が書き直しでとまっていたり、未完の傑作なんですね。そして驚くべきことに3年をかけたこの作品は、何層にも塗り重ねられ深みや実在感を出すために複雑に作られているにも関わらず、X線でわかる絵そのものは、ほぼ一発描きで仕上げられているということです。この両極端な部分から見えてくる『モナ・リザ』という作品の深い味わいに酔いしれるのは私だけではないでしょう。

ちなみに『モナ・リザ』は未完と言いましたが、そもそもダ・ヴィンチはその生涯でたった12の絵画しか残していません。しかも大作は一つもなく完成作さえほとんどないのです。ピカソがその生涯において15万点もの作品を残したのも天才ですが、たった12の作品でそれに匹敵する名声を得ているダ・ヴィンチもやはり天才なのです。ダ・ヴィンチにとって絵画は「人間の姿と心の動きを表現する」ことであり、素描の段階でそれができてしまうと、完成させるのはもはや作業にすぎなかったというのです。逆に完成させるとなると、先述のスフマート法を駆使するなど、真似できない手法で描ききるのでした。

ダ・ヴィンチの天才ぶり

ダ・ヴィンチの少年時代は意外にもあまり知られていません。けれども自然をはじめあらゆることに好奇心と情熱をもって接していたのは想像に難くないところです。彼は父の友達であった画家のヴェロッキオのもとで絵の修行を始めます。彼の絵を見てヴェロッキオはすぐにダ・ヴィンチの才能が並々ならぬことを知ります。それでもダ・ヴィンチが一たび作品を仕上げると、師匠として恥ずかしくなってしまい次第に絵を描かなくなってしまったようで、どれほどダ・ヴィンチの才能が圧倒的であったかを物語るエピソードですね。それでもダ・ヴィンチは多くの事をヴェロッキオから学んだといいます。

しかし彼の知的探求心はとどまることを知らず、やがて絵の世界だけでは飽き足らずあらゆる分野へと触手を伸ばしていくのです。自然科学、医学、数学、音楽、天文学、彫刻、建築、舞台芸術、機械開発などなど、数え上げればきりがないほどです。中でも当時彼は軍事技術にも長けており、潜水艦、戦車、ヘリコプター、大砲など、当時としては度肝を抜くような兵器を作れてしまう自分を知っていました。ミラノ公がそこに目をつけるも、その危険性を察知したダ・ヴィンチは建築家・彫刻家として仕えることを申し出たほどです。ダイナマイトを開発してから、そのことを嘆いたノーベルとの違いを見ることができますね。結果として宮廷で仕えることとなったダ・ヴィンチはその才能を、舞台装置などの機械仕掛けに活かし最高の宮廷演出家として喝采を浴びるのです。今でいうと劇団四季の『アラジン』の仕掛けなんてお手の物だったことでしょう。

少し美術から脱線してしまいましたね。『モナ・リザ』と並んで世に知られている作品に『最後の晩餐』があります。この有名かつ素晴らしい作品は残念ながら損傷がひどく、多くが剥がれ落ちてしまっています。何故こんなことが起きたのか、それもやはりダ・ヴィンチの天才ぶりに原因があります。彼は壁画における常識であったフレスコによる制作をせず、絵の具による制作に取り組んだのです。当時としては大いなる挑戦であり大いなる実験であったのです。結局これは不安定であることが証明されて、以降はフレスコによる手法が確立・立証されたのです。つまりこのクオリティの高い作品をダ・ヴィンチは実験程度のものとして考えていたのです。「ま、試作品だから損傷しちゃっても構わないや」と言ったかどうかは定かではありませんが、そんなに大したことだったのです。しかしながら、裏切り者のユダを見る威厳に満ちたイエス・キリストの姿を見事なまでに表したこの作品は人々の記憶に残り、損傷激しい不完全な状態であっても全く色あせる事のない評価をこの作品に与えたのです。

ちなみにダ・ヴィンチはミケランジェロと犬猿の仲であったことは知られていますが、ミケランジェロの超大作『最後の審判』を見たときのダ・ヴィンチの言葉。「こんな大きいキャンパスにこんなものしか描けないのか、私ならもっと素晴らしいものが描ける」はあまりに有名ですね。

 

おすすめ10選(12作のうちの10作なので“選”と言えるのか・・)

『モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)』

『最後の晩餐』

『受胎告知』

『聖アンナと聖母子』

『聖アンナと洗礼者ヨハネと聖母子』

『岩窟の聖母』

『音楽家の肖像』

『聖ヒエロニムス』

『アンギアーリの戦い』

『白テンを抱く婦人像』