【セザンヌ】を褒める

2021年10月3日

《突っ込みどころ満載のモダンアートの父》

私がセザンヌを褒めることになるとは、初めて彼の作品を見たときには思いもよらないことでした。ゴツゴツしていて何かしら不気味さを感じる作風。「私はこの絵、嫌いだな」「好きになれないな」というのが第一印象でした。

今ではどうにもこうにも気になって仕方がない画家の一人、それがセザンヌなのです。怒りっぽく神経質で画家仲間からも嫌われていた癖のあるセザンヌ、しかしながらその人生も作品も興味深いものであることは確かなのです。

生い立ちから突っ込みどころ満載です。父親に対して過剰なまでの恐れから偏屈者となり憧れのパリに出ることをあきらめてしまう、その後なんやかんやでパリに出てきたものの仲間となじめず帰ってしまう、またもやなんやかんやで再度パリに出てくるも美術学校に不合格となってしまう、寂しがり屋なのに「世の中に画家は自分だけ」と不遜な態度を取って嫌われてしまう、少ない理解者だった幼なじみのゾラと喧嘩別れしてしまう、もう一体どないやねん、苦笑の連続です。

けれどもダヴィンチしかり、ゴッホしかり、ピカソしかり、才能を持っている人たちは、皆このような普通の人とは違う側面を持っているものなんですね。セザンヌの極端な人間性は作品を通して強いメッセージを残し、後世の画家たちにも多大な影響を与え、印象派の枠組みを越えてモダンアートの父と呼ばれることになったのですから。

セザンヌの作品を褒めましょう。彼の作品は一見するだけではただの暗い絵、クセの強い絵にしか見えないかもしれません。けれどもよくよく見ていくと多くの発見があります。時代的にも印象派に分類されることが多いセザンヌですが、実際には印象派に飽きたらなくなり印象派を越えていくことになります。

セザンヌは形を単純化していくのです。わかりやすく言うと長方形や正方形を並べるような切り絵貼り絵のようなものでしょうか(最終的には、これがキュビズムの礎となるくらい)。細部への拘りは一切なく、肖像画においては似せるという気持ちなどさらさらないかのようです。そのくせ、モデルには何度もポーズを変更させたり、「果物は動かないぞ」と叱りとばす始末。彼の作品に風景画や静物画が多いのはモデルが耐えられなかったからとも言われるくらいですからね。あれ?褒めてない(笑)

拘ったのはむしろ構図であったようです。幾何学の世界とでも言えるでしょうか。作品としてのバランス、色の調和、形の組み合わせは無限で飽きることなく楽しめます。写実主義とは真逆のアプローチで徹底的に三次元を二次元化させた彼の功績は、想像以上に大きいものだと私は思います。

実生活においては破天荒なイメージのあるセザンヌですが、奥様は対照的に社交的で明るい方だったらしく、夫婦生活において安らぎを得られていたというのはほっこりするエピソードですね。結婚を機に静かな絵が多くなったとも言われていますが…そうかな、結局モデルが動くのが嫌だったんじゃないのって、最後まで突っ込んでしまいたくなる、そんなモダンアートの父、それが私の大好きなセザンヌなのです。

おすすめ10選

『シャトー・ノワールの眺め』
『カード選びをする2人の男たち』
『アンブロワーズ・ヴォラールの肖像』
『アヌシー湖』
『リンゴとオレンジ』
『ヴィクトール・ショケの肖像』
『サント=ヴィクトワール山』
『プロヴァンス地方の家』
『メダンの館』
『オーヴェール、パノラマの眺望』
『田園詩』