【『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)






直球ど真ん中の青春小説ですね!瀬尾まいこさんらしい作品だと思います。中学の駅伝の世界をみずみずしく描いているのですが、変にど根性ものとして熱すぎることもなく、かといって冷めた感じのクールなものでもなく、非常にリアリティのある中学生の日常が描かれています。一昔前までは、この手の青春モノは必ず厳しい練習と逆境に耐え、逆転につぐ逆転で最後に大きな栄光をつかみ取り、メンバー全員で熱い絆を確認するといったストーリーがテンプレート化されていたような気がします。そしてそれは今でも健在で、いかに雛形どおりのものでも、人間に感情がある以上はある程度感動するものです。私も嫌いではありません。けれども昨今のトレンドとしては、そこまで熱くなくてもよい、むしろ熱くない方がよい、そして大逆転は不要、平凡な成績がリアル、そんな感じがします。時代がこのような作品を求めるようになったのでしょう。そして、その試みは今作品において大成功していると思えるのです。私は詰まるところ、熱い青春小説も、さりげない青春小説も、ひょっとするとクールな青春小説も、作家の描きたいものが軸として通っているのならば、どんな形であれ成功するものなのかもしれないと思いました。

さて、駅伝・・・ご存じのとおり何名かのランナーが襷をつないで走る競技なのですが、この作品ではそれを踏まえて面白い構成をとっています。つまり、それぞれの区間を走るランナーごとの視点を、そのまま章の構成としているところです。また6名の登場人物全ての関係を描くのではなく、あえて襷を受け渡す者同士の2人の関係に絞って映し出すというのが、とても見事に決まっています。それでいて、最後読み終えたときには6名全体の人間関係が見えてくるのが素晴らしい。

そしてもう一つ二つおまけポイントをあげておきましょう。主人公とも言える登場人物の調子を通して、ちょっとしたミステリ仕掛けになっているのは見逃せませんね。主題ではないものの、効果的な演出につながりました。加えて顧問となった頼りない教師が、ドタバタ動いているのがかなりスパイスを効かせているのも、これまた見逃せないのです。作品そのものにコミカルさと感動をうまく味付けしてくれる存在でした。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★★