【『ひらいて』綿矢りさ】を褒める

読了後の感想(4分で読めるよ)







芥川賞を史上最年少の若さ19歳で受賞した綿矢りささん。あまりに若すぎる受賞のせいか、それに相応する評価を受けていないような印象を持ちます。また遅筆な作家さんであることも、いささかその実力を疑問視されているのではないかと思っています。私自身は、芥川賞作品となった「蹴りたい背中」よりも、W受賞でこちらも20歳の若さでの受賞となった金原ひとみさんの「蛇にピアス」のほうが衝撃を受けていたこともあって、あまり綿矢さんを推すというところまでは至っておりませんでした。

さて、今作「ひらいて」は綿矢さんが受賞から10年ほど経ってから発表された作品であり、6作目くらいにあたるのでしょうか(間違っていたらごめんなさい)。どうやら賛否両論ある作品になったようですね。実際に読んでみて納得です。これは評価が難しい、ある人には「良し」とされるだろうし、またある人には「無し」とされるだろうし。そんな好き嫌いが分かれる物語なのです。

私はもうこの記事をあげている時点で基本「良し」としているのは明らかですね(^_^;)。では、どうして「良し」なのかをお話したいと思います。

の前に、ざっくりとしたあらすじだけ。・・・高校生の三角関係です。と言ったら身も蓋もありません。三角関係を構築するのは、奥手と思えるカップルに、積極的な女の子がカップルに割って入ろうとする物語なのです。ただそのアプローチがどこをどう間違えたのか(読んでもらえれば、そんな突飛な間違いではないことがわかります)、自分が恋した彼氏側ではなく、恋敵である彼女側に迫ってしまうのです。文面にするとカオスですね。けれども愛に友情が絡むととてもややこしい。そしてそのタイトロープをわたるような綱渡りが成功して進んでしまうからもっとややこしいのです。

この作品の評価ポイントはこの一見リアリティの無い世界観を無理なく作りだす上手さにあります。特に女性が女性へアプローチするという無理な設定がいとも簡単に受け入れられるような流れを描き出すのは見事でした。それは作品の中でもいびつな形であるはずなのに、きれいに展開できているのです。これはぜひ読んでもらいたいですね。

さらに注目すべきポイントがあります。3人の心の動きが、慌ただしく攻守交代し、心理戦を繰り広げるのです。この心理戦の行方も素晴らしく、単純に結論づけたりするのではなく(つまり勝ったり負けたりではない)、見方によって幸不幸が変えられるのです。それは読者も巻き込まれることでしょう。もし勝ち負けの話(つまり結論づけたい)読者にとってはこの作品は「無し」なのかもしれません。「読んで損をした」「意味がわからない」という不評が出るわけです。けれども高校生の心はそんなに単純なのでしょうか、加えて恋愛の感情はそんなにわかりやすいものでしょうか、友だち関係は理屈で片付けられるものでしょうか。私たちにも振り返ればあったであろう、説明のつかない理不尽な感情や、自分でも気づけないような感情、そういった感情がこの作品にはつまっているような気がしたのです。

読み始めと、読み終わりでは好きな登場人物が変わっているかもしれませんし、いいと思った言葉がよくないように思えたりするのがとても不思議でした。これは綿矢さんの物書きとしての非凡な能力を証明しているのではないしょうか。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★★

オススメ度 ★★★