【『自転しながら公転する』山本文緒】を褒める

2021年6月19日

読了後の感想(過去の読了分:3分で読めるよ)




2000年前後、本屋さんには山本文緒さんの作品がたくさん並べられていました。そんな時代を思い出すかのごとく、山本文緒さん、完全復活と言っていいでしょう、2021年本屋大賞5位の作品です。直木賞受賞前後の快進撃から一時は精神的ストレスで書けなくなったとも聞いていましたが、この作品は当時を凌駕するような、ある意味集大成的なものだと思えました。本当に嬉しい。女性の心理描写にかけては右に出る者がいないくらい文緒さんは素晴らしいのです。

主人公は決して完璧な女性ではありません。このあたりの設定からして文緒さんらしくて泣けるのですが。触れ込みにある通り、母の介護にも追われ(介護の必要性に疑問を持つというおまけつき)、好きだった仕事も妥協のような形で勤め、恋愛においても大好きなくせして、やれ学歴が、過去が、生き方がなんて気になってしまう。とにかくにもうまくいかないのです。母とも衝突するし、友達とも喧嘩になるし、職場では社員と会社側が争うし、ハラスメントまで起きてしまう。恋愛については、ベトナムの若者まで絡んできちゃって、もうどうしたらいいのって感じですね。でもそんな中もがきながら一生懸命突き進んでいく主人公がとても愛おしい!

これらが解決策ならぬ解決に向かって転がっていくのですが、もがいてる様(さま)が自転、大きな人生の流れで結末に行き着くのを公転と考えるなら、このタイトルまでが見事につけられたとさえ思えるのです。山本文緒さんは直木賞受賞の前からとても共感を得られる作家さんとして人気を博しましたし、この作品はそんな文緒さんらしさを10年以上もブランクを経て再び感じられることができたということだけでも、私にとっては涙が出るくらい嬉しいことでした。もしかすると、都という女性は文緒さんご自身が投影されたキャラクターなのかもしれませんね。

技巧も見事で途中、母親に視点を変えることで客観的な目線を主人公に送ることで奥行きを見せたり、プロローグとエピローグに面白い仕掛けを用意していたり、前述のタイトルが登場人物の何気ない言葉や行動にちりばめられていたりするので、読みながら度々唸っちゃいました。そもそも等身大の女性を描ききっている時点で上手さに満点つけられる出来映えなんですけどね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★★★