【『木曜日にはココアを』青山美智子】を褒める

読了後の感想(2分で読めるよ)

2021年も暮れになってとてもいい小説を読むことができました。実はこの時期、年間ランキングのまとめに入っていて、心の中ではベスト15がほとんど決まっていたのですが、そこに割って入ってくる作品となりそうですね。本屋大賞ノミネートで『お探し物は図書室まで』を読みましたが、正直それをはるかに上回る傑作だと思いました。

まず近年流行りの連作短編形式をとるのはよいとして、その技巧がこの作品は他のものとは違ってたくさん散りばめられています。物語に登場している人物が数珠つなぎのように絡んでいくのは連作短編の常套手段ではありますが、この作品はその絡み方の濃度が絶妙なのです。わざとらしければ陳腐ですし、さりげなさすぎると「あれ誰だっけ?」みたいに困惑させられます。その点、今作では「この人のこと知りたいな」「多分この人も絡んできそうだぞ」というちょうど良いところで繋がっていくので、そのまま読みやすさにもつながっています。

次にこのストーリー一つひとつに色のテーマがかけられていることが魅力的です。これまた仕掛けとしてはわざとらしい気もしますが、そこは青山さんの上手さが光り、とてもちょうどよく色に絡めているので鼻につきません。そして楽しむことができるのです。なおかつ、いい加減な絡め方をしておらず納得感があります。

さらにストーリーはどれも温かくほっこりさせてくれるものばかりです。もちろんとりまく環境がいささか厳しいものはあったりしますが、それでさえ描写は柔らかくオブラートに包まれているので、とても柔らかな感じがすることでしょう。安心して読めるし読み手の負荷は最小限にとどめられています。ほっこりするだけではありません、とても上手いですし読み物として面白いです。また200ページ程度の作中に12のストーリーですから一つの物語はショートショートとなります。にも関わらずきちんと掘り下げているのは技術の賜物ですね。

またストーリーの橋渡しがスムーズでイメージとしてはバトンを渡してトラックを1周するようなイメージでしょうか。元のところに戻ってくるような。本屋大賞ノミネートにあった私の好きな作品に伊吹有喜さんの『犬がいた季節』がありますが、こちらはまっすぐ進んでいくイメージでした。同じ短編でも違いがあるものですね。

登場人物たちの意志がはっきりとしているのもポイントです。心理描写が長けており、よくこんなに短い文章で表現しきれるものだと感心します。一つ目の『木曜日にはココアを』と最後の『恋文』については、長編を読んでいるくらいのカタルシスを得られました。

そして、ここが私の一番の推しどころなのですが、“ココア”に秘められた真実。そして仕掛け。これが粋でうならされます。こんな胸にくる演出はそうそうお目にかかれません。この部分だけでこの本を手に取る価値があります。

つまるところ青山美智子さんは連作短編の名手だということがよくわかりました。続編『月曜日の抹茶カフェ』を早めに読みたいと思います。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★★

オススメ度 ★★★★★★