【『サロメ』原田マハ】を褒める

2021年8月4日

読了後の感想(3分で読めるよ)







数々のアートにまつわる小説を発表されている原田マハさん。その装丁に名画がよく使われていることもあり、それ故に手に取られる読者さんも多いのではないかと思います。ただその中でも今作に使われたオーブリー・ビアズリーの『踊り手の褒美』にはぎょっとさせられた方もいたのではないでしょうか。好きになるかどうかはわかりませんし、私はあまり得意ではない画風ではあるのですが、一度見たら忘れられないインパクトを持っており、今作のような暗いイメージを表現する上では、ここまで具現化された画家さんはそう見当たりません。

小説のタイトルとなっている『サロメ』も『踊り手の褒美』も聖書にある物語から紐解かれたものであり、預言者ヨハネを無きものとするために、踊り子が見事に踊った褒美としてヨハネの首を所望させるという、いささか狂気じみたエピソードが元となっているので仕方ありませんね。(この話はネタバレではありません、ご心配なく)

他の原田作品より短めのお話でもありましたが、とても切れ味鋭く踏み込んだ内容となっています。病弱な天才画家ビアズリー、耽美的な天才劇作家のオスカーワイルドの関係性をビアズリーの姉の視点を中心に描かれています。この姉であるメイベルは女優の端くれであり、いつか有名女優となって世に羽ばたきたいという野心を持ちながら、弟の創作活動を応援しているのですが、作中におけるキーパーソンとして活躍してくれることになります。

ビアズリーもオスカーもどちらも謎多き天才として知られていますが、原田さんによる肉付けは他の作品同様とても興味深く面白いものでした。司馬遼太郎さんの司馬史観のように原田マハさんの原田史観なるものが感じられますね。

そして焦点は彼らの天才的な作品そのもの以上に、彼らに巻き起こるスキャンダラスな関係こそが作品の魅力を引き上げています。読み手としてはこの危ういギリギリの均衡の上に成り立っている人間関係をハラハラしながら見つめることになるでしょう。

物語における抑揚が急であったり、カタルシスが得られにくいものとなっているのは、二人の史実があまりに知られていないことと、二人の生涯が残念ながらどちらも短かったことも影響しているでしょう。ビアズリーのおどろおどろしい作風、悲劇的な描写であったり、オスカーの著作に見られる退廃的・懐疑的な世界観が、皮肉にも原田さんのこの作品の様相をもそのように彩られることになったように思えてなりません。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★