【『とっぴんぱらりの風太郎』万城目学】を薦める

読書のススメ(2分で読めるよ)

万城目さんの作品はいつも独特の世界観を有していて、それがはまれば面白いし、はまらなければ少し困惑させられてしまいます。この『とっぴんぱらりの風太郎』は多くの人にはまりやすいのではないでしょうか。そういう意味では万城目さんの作品が苦手な方でもぜひ読んでいただきたいと思います。そもそもこのタイトル、主人公の風太郎がニートの忍者だからこうなっているんですよ、つまりは“ぷーたろう”ということですね。こんな遊び心をタイトルにしていいのかなって思いながらも、読み終えると「風太郎~~~っ!」てとても愛着が湧いてしまっているから不思議です。いや、不思議じゃありません。この長い長い物語を読み終える頃には、風太郎は心にしっかりと刻まれ、読後、風太郎との別れを惜しむはずなのですから。全然不思議ではありませんよw

設定も語りも展開も全てが楽しく面白いこの作品、痛快な活劇で読むものを楽しませてくれます。ユーモラスでコミカルな展開が段々とシリアスになり、手に汗握る戦闘シーンと変わっていく強弱も魅力の一つです。そう、この作品のポイントはこの強弱なような気がします。万城目さんの作品の色付けがきちんとメリハリがあって、長い作品でもだれないんですね。読んでいて退屈しないのです。実は物語の軸は歴史を背景にしていることもあって、振れ幅大きく脱線することができません(って十分脱線してるけどね)。そういう意味ではある種の制約の中で今作を仕上げたのは驚きとも言えます。その史実の中にファンタジーを織り交ぜ、魅力的なキャラクターとともに作品を盛り上げます。不思議なひょうたんとの出会いは風太郎の人生を大きく揺らがすことになります。その流れで知り合うことになった豊臣秀吉の妻ねねとその子ひさご(秀頼ですね)。誰もが知る大坂夏の陣で風太郎はどんな活躍を見せるのか。完璧ではない風太郎だからこそ親近感を持ち応援してしまうような気がします。そしていい加減な印象のあった風太郎が、物語を走り切ったときにわかる作品の骨太感。これは読んでみないとわからないと思います。単行本ではかなり分厚かったのですが、文庫本では上下巻にわけられているようです。読みやすくなったと思いますのでぜひ手に取ってみてください。

レビュー

<読みやすさ>

作品のボリュームとは裏腹に読みやすいです。内容がコミカルであるのとテンポが速いので読みづらさを感じないからです。また章ごとのメリハリもついており、展開が気になるのでページをめくる手がとまらない感じですね。中盤以降はそれこをあっという間でした。特にクライマックス付近では寂寥感も伴い、読み進めたくないけど読み進めてしまうといった感じでした。

<面 白 さ>

面白さは保証できます。不思議な世界観が特徴の万城目作品ですが、クセは小さめですし、コミカルな流れの中では“面白さの演出”程度に捉えられると思います。一方で史実をベースにしているため、変にリアリティが残されていたりします。このバランスが絶妙な作品と言えるでしょう。

<上 手 さ>

奇想天外な展開は持ち合わせていません。突飛な世界観や禁じ手のような飛び道具があるわけでもありません。意外にも正当な歴史小説に近いような気もします。もちろんフィクションがすぎるので歴史小説ではありませんが、その塩梅がとても素晴らしく作品に安定感を与えています。そしてノンストップアクションとして楽しめるから万城目さん凄すぎます。

<世 界 観>

別の意味で大きな世界観です。歴史の舞台の大きさもありますが、それだけではありません。作り出す世界設定の面白さもありますが、それだけではありません。風太郎の生き様を見ていると人間や生活と言った身近なものにも懐の深さを感じたりするようで、読後の余韻が作品の大きさを示していたような気がします。こういう大きさもあるんですね。

<オススメ度>

これくらいのボリュームになってくると読むのにある種の覚悟が必要でしょう。なので私のこの褒め記事が背中を押せるのであれば何よりだと思っています。おススメです。きっと「読んで良かった」と思えることでしょう。あるいは万城目作品で挫折経験がある人でも、最後にもう一度今作に挑戦することをおススメしておきます。