【『RIKOシリーズ』柴田よしき】を薦める

読書のススメ(3分で読めるよ)

女性刑事・村上緑子(RIKO)の活躍を描くシリーズ三部作は『女神(ヴィーナス)の永遠』『聖母(マドンナ)の深き渕』『月神(ダイアナ)の浅き夢』からなります。この3作において、主人公・村上緑子は女性として母として成長していくことになります。このシリーズは全体を通して大きな世界観を持っているだけではなく、村上緑子はじめ多くの登場人物の成長の物語でもあるのです。

まずこのシリーズの素晴らしいのは、作品としての幅広さです。刑事小説でもあり推理小説でもあり大河小説でもあり恋愛小説でもあり官能小説でもあります。そう、官能的なのですね、これは驚きです。また今の時代では当たり前となったLGBTQについても垣間見ることができます。そういう意味で一つのジャンルで括ることのできない大きさを感じれるシリーズとなっています。

そして世界観が素晴らしいのです。今回はRIKOを中心に3作品を紹介していますが、他の柴田作品と世界線を同じくしており、他作品での重要人物が結構深く絡んできたりします。辻村深月さんが、このような世界を描いていますが、それに近いものがあると言えましょう。

さらに登場人物がとても魅力的なのですが、その魅力が完璧な人物設定ではなく不完全な人物設定に由来しているところも魅力的です。これこそリアルな描写であり、親近感を寄せうる要因となっています。けれども不思議なことに、その不完全さゆえに輝きが曇ることなどなく、むしろ眩い光を放っているのです。

私自身はこのRIKOシリーズを読むと、読書の楽しさ、小説の可能性、文章の美しさなどを感じ取れるのです。「本が好きでよかった」と思えるのです。しかし同時にこの作品の持つリスクも感じます。あまりに赤裸々で、生々しい表現が、時に読者を傷つけ、目を背けさせてしまうのです。官能小説的要素を芸術的ととらえるか、卑猥で下品だと感じるのかは、読み手によって大きく変わります。そういう意味では、自由奔放で性に対してだらしのなさを見せるRIKOを「ヴィーナス」とタイトルに付けたのは見事です。美術史においてもヌードは常に議論の的でした。ヴィーナスであれば神秘的とされ、人間であれば猥褻であるとされ、しばしば議論がたたかわされてるのです。もし読書や小説に夢や理想を求めているのであれば、失望を与えられてしまうかもしれません。私がここでオススメするのも間違っているような気もします。

ただ、私は思うのです。人間は誰しも理想の素晴らしい部分と、誰にも知られたくないような汚い側面を持っていると。それは万人に通ずる事実だと思っています。その汚い部分は見たくないというのであれば、このシリーズは読まないという選択でいいと思いますし、そういう部分も知りたいということであればぜひ読んでいただきたいと思います。そして深みにはまるのであれば、山内練や麻生龍太郎といった人物を中心に書かれた関連作品をも読んでいただければと思います。

レビュー

<読みやすさ>

官能表現なども多く、読みづらいという方がいらっしゃるかもしれません。村上緑子と数々の男性との絡みはあまり読みやすいものではないでしょう。読み飛ばすのも一手かもしれませんね。けれどもそれ以外の部分はとても読みやすく、スピード感あふれる展開が待ち受けています。テンポ自体は悪くありません。

<面 白 さ>

一度、この世界にはまればめちゃくちゃ面白いです。この世界から抜け出すことは容易ではありません。シリーズ作品を貪るように読んだのを覚えています。また登場人物一人ひとりの肉付けが素晴らしく、ストーリーをさらに濃厚なものにしています。これを面白いと言わずして何を面白いと言うのでしょうか。

<上 手 さ>

とにかく上手いです。私が一番上手さを感じるのは余白の使い方です。行間で心情を映し出すという技法は柴田さんならではだと思います。そして人間の影を映し出すのが上手いです。登場人物は全て不完全で、弱さや汚さを容赦なく描き出します。このように登場人物に対して厳しいのも柴田さんの上手さだと思えます。

<世 界 観>

今をときめく辻村深月さんが作りだす辻村深月ワールド。けれども、これと同じ世界観を柴田さんは20年近く前に作り出していました。もちろん他の作家さんにもこういった世界観を作る作家さんはいたとは思いますが、それが作品的にも商業的にも成功しているのはなかなかないのではないでしょうか。RIKOシリーズはその成功例としてあげることができる作品です。

<オススメ度>

実は諸手をあげてオススメとまでいかないのです。これまでも多くの方にこのシリーズをおススメしてきましたが、村上緑子の生き方があまりに欲望中心でエゴをむき出しにしている分、嫌悪感を示される方も多くいました。中には村上緑子が大嫌いという方も。むしろ敵役の山内練のほうが人気があるように思います。