【モディリアーニ】を褒める

<長首と瞳のない目で独特の作風を開拓した肉感表現の第一人者>

褒め記事を書き始めたときは、モディリアーニについて書く気はありませんでした。正直、長首と瞳のない目だなんて怖いじゃないですか!?不気味にうつるその作品は、幼い頃みたトラウマ級の奇怪な挿絵が脳裏に浮かんで、できることなら見たくないとの思いが出てきてしまったのです。けれども、この褒め記事を多数書いているうちにあることに思い当たりました。セザンヌやマティス、言うなれば今は大好きな印象派絵画でさえ、当初私は好きではなかったのです。けれども作品が持つ意味合いや創意工夫、特徴などを知るにつれ、その作品を受け入れられるようになることがあります。さらには大阪にやってきたモディリアーニ展。これは何かの啓示かもしれません。そこで今回、私はモディリアーニの作品・作風・技法をもう一度見つめなおし、アプローチし直してみたのです。すると、どういうことでしょうね、「モディリアーニ、なかなかいいじゃないか」とこれまでとは違った良さが見えてきたので、この思いをそのまま記事にぶつけようと思ったわけでございますw。もちろんモディリアーニ展を訪れ、その作品を存分に楽しんできたのは言うまでもありません。

『髪をほどいた横たわる裸婦』(展覧会より撮影許可作品)

モディリアーニの人となりに目を向けるとあまり良からぬ情報ばかりが舞い込んできます。やれマザコンだっただの、ナルシストだっただの、自分の絵を押し売りしてくるだの、挙句には酔うと脱ぎ始めてしまうだの、一体どんな人なのと思ってしまいます。けれどもとても美少年で幼少期は虚弱体質だった彼が甘やかされて育ったという背景を聞くと納得してしまったり・・・。いやいや、それは違うでしょという突っ込みも聞こえてきそうですが。それはさておき、モディリアーニはとてもデリケートで傷つきやすい人物だったことは間違いなさそうです。それが故に薬物に依存してしまい、自らの命を縮めてしまったということもなんだか物哀しく切ない。けれどもそんな精神世界をキャンバスで表現したとき、彼の才能は花開き唯一無二の作風が世に放たれたのです。

前述のとおり体の弱かった彼は、もともとは彫刻の道を目指していました。けれども体力を激しく消耗する彫刻の世界を断念するしかありませんでした。ギリシア建築にて見られるカリアティードと呼ばれる柱の女性の立像が、後に肉感表現を重んじる彼の作品の特徴へと受け継がれていくわけですね。ルノワールやゴヤといった巨匠にも負けない女体のフォルムはこの時に培われたのかもしれません。また彫刻の欠点をも見逃さないリアルさは彼が絵画に舞台を移してからも脈々と受け継がれた世界観だとも捉えられます。私が苦手としていた長首、傾いた顔、小さな口、決して端正とはいえない容姿などは、究極のリアリズムとも言えるのではないでしょうか。肖像を描いてもらったジャックリプシッツ夫妻は、その肖像画を気に入らず、お蔵入りさせてしまったほどだそうです。一方で瞳のない目についてはリアリティとは違い、彼の精神世界を映し出しているかのようです。そこに映るは“冷めた目”“軽蔑した目”“諦めの目”、うつろで虚無的な世界を見事に表現するだけでなく、いくつかの瞳のある作品について“安心感”“温かみ”を与えてくれる対比も感じ取ることができるのです。最終的には、私達の見方によってその目の意味合いが委ねられており、作品そのものの深みを与えています。けれどもそれは決して放置された委譲ではなく、自信に裏打ちされた委譲であったようにも思えます。一説にはモディリアーニは凄まじいほどのデッサンを残したそうです。ゆえに不安定なその目とは別に、体のラインなどはしっかりとした線で描かれているのです。この時代の画家にしては珍しい事だと思います。私が褒めたいポイントはまさにここにあります。モディリアーニは決して何となくの世界観を作品に込めたわけでもなく、彼なりに自身を死ぬ気で投影したのです。酔うと脱ぎだすという彼の奇行も「集中して絵を描き出すと、着てるものを全て脱ぎ去って、絵の具まみれになりながら制作した」と聞くと、その意味はまるで変ってきます。デリケートで傷つきやすい彼だからこそ、そこまでできたのではないかとも思えてしまいます。これは素晴らしいと置き換えることもできるのではないかと、褒めたい私はそう思うわけです。

またモディリアーニは非常に孤独な画家であったこともわかっています。傾倒したのはセザンヌ(これがセザンヌというところがまた彼らしいですね)ただ一人。師もいない、弟子もいない、どの派閥にも属さないというあたり、余計に彼の独特な世界観を加速させたように思えます。それが証拠にモディリアーニの作品は誰が見ても彼の作品だとわかるではないですか。彼の作品が好きな人も嫌いな人も、彼の絵だと認識できるくらい唯一無二のオリジナリティを見せつけたのですから。

彼の物悲しいエピソードをもう一つ。長年の不摂生がたたって35歳の若さでこの世を去ったモディリアーニ。彼には愛するパートナーであるジャンヌ・エビュテルヌが居たのですが、モディリアーニの死後、後を追うように自死してしまうのです。そのとき彼女のお腹にはモディリアーニとの子供が宿っていたというから、あまりにやるせない出来事です。それを踏まえて瞳のない彼の作品を見直すと、何とも言えない寂寥感に包まれてしまいます。

おすすめ10選

『青い服の少女』

『フランク・バーティーハイランドの肖像』

『小さな農夫』

『ジャンヌ・エビュテルヌの肖像』

『テーブルに肘をついて座る男』

『子供を抱いて座るジプシーの女』

『座る寡婦』

『ポールギヨームの肖像』

『新郎と新婦』

『ジャック・リプシッツ夫妻』

その他の作品

『若い小間使い』

 

『ポンパドゥール婦人の肖像』