【『ビオレタ』寺地はるな】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)

とても良い作品を読ませてもらいました。って、えっ、これ寺地はるなさんのデビュー作なの!?それはもう驚きでしかありません。今年初めて寺地はるなさんの作品を読むようになったのですが、とてもみずみずしく素晴らしい感性をお持ちの作家さんだと思いました。けれども今回のデビュー作は別の意味で心揺さぶられましたね。若い頃にはまった山本文緒さんの描く小説を彷彿とさせるのです。奇しくも文緒さんの『自転しながら公転する』が本屋大賞の候補作となって世間を騒がせる復活劇を演じていましたから、なおさらシンクロさせた部分がありました。でも今となっては円熟味あふれる文緒さんですが、お若いときは寺地さんの今作のような溢れる想いをとどめられないような勢いある作品が多かったですよね。

寺地さんの文章はただ感情が染み渡るように描かれるだけでなく、登場人物(特に主人公・語り手)がやや自虐的に自己評価をしたりします。それがとてもユーモラスで作品の面白さを引き上げています。読者も最初は愚痴のような感情を受け入れていてもそれが続くと辟易とすることがありそうなものですが、この手法によって一息つかせる効果があります。なんなら何度でも楽しみたいような気持ちにさえさせてくれるのです。

結婚や恋愛にコンプレックスを持っているような主人公の周りに、そのコンプレックスを凌駕しているような面々が現われ軽く吹き飛ばしているかのように振る舞っている裏側で、それぞれが抱えるまた別のコンプレックスを逆に主人公が見つめるという視点の切り替えし(視点は変わらないが、主人公自身の見方が切り替わる)が功を奏していると言えましょう。そして一見古めかしいおためごかしのような発言も、ようよう探ってみるとそれなりに背景があったりしてね、多視点が身につくのは良い事です。(と簡単に結論づけてもくれないから好きです)

言うなれば自然体の作品という感じでしょうか。とてもナチュラルで飾りがない。それが好感度をあげ読みやすさに拍車をかけているんだと思います。寺地さんの他の作品ももっと探求していきたくなりますね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★★