【『民王 ~シベリアの陰謀~』池井戸潤】を褒める

読了後の感想(2分で読めるよ)

痛快な政治コメディの続編。前作同様とてもコミカルで読みやすく、おそらく作者自身も楽しく描いたのではなかろうかと思える作品です。前作では親子が入れ替わるというSF要素がありましたが、今作ではその設定に頼るのではなく、なんとコロナ禍の世界設定をそのまま頼るといういささかベタな設定となっています。それだけに読みやすさは半端なく、少々活字が苦手な方でも平気で読めてしまうことでしょう。大体において今の世界情勢が頭に入っていれば、文章読まなくても展開を想像できるくらい寄せた内容なので、物語の流れは簡単に把握できてしまいます。加えてコメディでありどたばた劇なので、そもそも丁寧に読み解く必要さえないのかもしれません。楽しめれば十分、そのテンポを楽しむ類の作品だと言えます。シリアスな舞台でもユーモアを盛り込んでくる池井戸先生ですから、はなからコメディとなると前作でもそうでしたが、振り切って面白く描きだしてくれます。勢いがつきすぎてもはや真面目な世界はどこへやら・・・と心配はご無用。最後の最後の大演説はなかなかにかっこよく、なかなかに真面目なシーンとなっていますから。ただ目につくのはやはりコロナで混乱を極めた世界を、復習するようになぞる展開。かつて我々が通過した部分を描いていくれているので、わかりやすいっちゃあわかりやすいんだけど、世界構築は目新しいものではないのがとても残念な部分ではありました。

加えて褒め屋があえて苦言を呈するなら、池井戸先生クラスになると『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』『半沢直樹シリーズ』のようなハイクオリティな作品を読みたいという読者も多いんではないでしょうか。そういった読者にとって大満足は得られないような気がします。(小満足を確実に取りに来た感じでしょうかw)ここまでくだけるのはきっと先生も楽しいんだと思うんですけど、名作ぞろいの他の作品からすると、楽しさは一時的で代表作にはなりえず、埋もれてしまうのがもったいない。この題材をもう少し掘り下げて欲しくなってしまうのはファンの欲目なのでしょうか。キャラクターが最高なだけにもっともっと作品は跳ねると思うのです。今作の終わり方を見ると、どうやらこれ以降も続編は出せそうな感じですね。でも次回作もこれまで同様コミカルな感じでいくんだろうな。もちろん、それはそれで期待に応えてくれる池井戸先生。大沢在昌先生の坂田シリーズのような立ち位置になるんでしょうね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★

世 界 観 ★★★

オススメ度 ★★★