【『invert』相沢沙呼】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)







みんな大好き翡翠ちゃんが帰って参りました。翡翠ちゃん人気はミステリの装丁ではすっかりお馴染みとなったイラストレーターの遠田志帆さんが描く翡翠ちゃんの可愛さも拍車をかけていると思います。皆さん遠田志帆さんの画集「ART WORKS」および「キセキノツヅキ」もよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

さて前作「medium」にて見事な叙述トリックを見せてくれた相沢沙呼さんですが、今作でもその切れ味はそのままに、さらに今作ではすでに読者が翡翠ちゃんの正体を知っている事を見越して、その上での仕掛けを繰り出してきます。そして3つの短編からなるという構成。これがとても読みやすいものになったと思えました。いずれにせよ“城塚翡翠”という稀有なキャラクター特性を見事に操り、その魅力を存分に引き出した、いや前作以上にスケールアップさせた仕上がりを見せてくれたのです。これはもうみんな翡翠ちゃんの虜になってしまうことでしょうね。

それにしてもこの手の作品における読了報告はとても難しい。仕方ないのでもう少し翡翠ちゃんの魅力を3つお伝えしておきましょう。

まず翡翠ちゃんは作中の人物でありながら、多分に読者の目を意識した動きを取ってくれます。それはある種の劇場型というか、探偵モノの世界観を俯瞰した作者的立場というか。つまり作品を超越した動きをするのです。この動きに作中の登場人物たちはもちろん、読者である私たちも困惑させてくれるのです。

次に翡翠ちゃんは自身の力を卑下する事も過信する事もありません。そして「自分はできる」という信念は揺らぎません。私たちはこれらの感情を混同してしまって時として自身さえコントロールできなくなります。できるのにできないと感じたり諦めたり、できもしないのにできると誤解してしまったり突き進んでやけどしてしまったり。そのくせ「自分はできない」とぶれまくりの心で多くのできることを見失っていたりさえします。そんな私たちの愚かさを気持ちよくあざ笑って否定してくれる・・・それが翡翠ちゃんなのです。

最後に翡翠ちゃんはとてもロジカルです。それは自身の容姿や言動、飾り立てた虚像でさえもロジカルに構築されています。そしてそれをきちんとロゴス化(言語化)できるのが素晴らしい。その説得力は文中の世界を越えて、読む者全てに届くのです。

さあ、周りでネタバレの情報を誤ってキャッチしてしまわないうちに早めにこの作品を手に取って読んでしまいましょう。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★