【『神の悪手』芦沢央】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)



私にとってはこれが芦沢央さん、初読みとなりました。なんでも辻村深月さんを敬愛しておられて、ペンネームは『凍りのくじら』の主人公・芦沢理帆子からとってるんだとか。同じく辻村深月さんを敬愛(えっ?レベルが違うって、そんなこと言わないで(^_^;))している私としても読まないわけにはいきませんね。

本作品は将棋をテーマに5つの話からなる短編集。ほんの一部だけ、登場人物が被っているところはあるものの、ストーリーとしては一話一話独立していると考えても差し支えありません。テーマが将棋だけに、読みづらさや難しさを感じるのではないかと思いましたが杞憂でした。文体はとても柔らかく読み手に負担をかけません。将棋についてもルールを知らない人でも大きな問題は生じないと思います。それでいて、盤上の戦いは手に汗握るものとなっており、どうしてそんな緊迫した世界を表現できるのか、探ってみました。思うに、指す一手一手に棋士の内面世界を緻密なまでに描いているからではないでしょうか。昔のドラマやアニメなどでも、やたら心の中を描写して「さすがにそんな時間ないやろ~」と突っ込んでしまうことがありましたが、それの小説版とでもいいましょうか。しかも将棋は「そんな時間ないやろ~」とは言わせないのです。もちろん持ち時間が無くなってしまえばそんなこともないのでしょうが、今作ではそういったシーンは出てきません。つまり、内面世界をこれでもかと切り抜いた作品だと言えるのです。

私が興味を惹かれたのは『恩返し』と『弱い者』でしょうか。『恩返し』については棋士の話ではありません。将棋の駒を作る職人の話なのです。そしてテーマは師匠と弟子。弟子の師匠に対する“恩返し”について、なかなか深く掘り下げています。よく成果を残すことや師匠を打ち負かすことなどを“恩返し”と言われますが、果たしてどうでしょう、この作品から読み取れる恩返しを読み手は一緒に考えていくことになるでしょう。『弱い者』については心の奥底に潜む醜い気持ちをつきつけられてどのように考えるのかを読み手はじっと見守ることになるでしょう。

帯の紹介や触れ込みから“切れ味鋭い小説”のイメージもあったのですが、私にはあまり切れ味の鋭さは感じられず、なんだか鈍く深く心に刻まれるような印象がありました。だからこそ余韻が残り、味わい深い作品に仕上がったのではないでしょうか。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★