【シャガール】を褒める

2022年7月15日

《様々な画法を柔軟に取り入れた幻想世界の表現者》

近代の前衛芸術につながる画法で、私たちの脳裏に浮かぶのはピカソのキュビズムではないでしょうか。もはや、原型をとどめさえしないその技法は、より強いメッセージ性を持って私たちに何かを語りかけてくれます。

ではピカソの他にキュビズムだと一目でわかる作品を描き、なおかつ誰もが知っている画家といえば誰でしょうか。私はおそらく今日紹介するシャガールなのではないかと思っています。彼は今なお人気の画家であり、彼の作品は見たとたんに誰が描いたのか明らかになるくらいそのオリジナリティとともに私たちに認識されています。

しかしながら、彼はけっしてキュビズムだけの代表的画家とは言えない気がしています。彼の作品をよくよく見ていくと、キュビズムの他に、フォービズム、シュルレアリズム、果ては後期印象派の影響さえ感じとることができるのです。

彼の作品の題材の多くに見られる「家族」や「村」、そして初期の彼の作品の多くは、実は現実に近く描かれており色使いや漂わせる雰囲気などは敬愛するゴーギャンから影響を受けたものであることがよくわかります。
このタッチは後に野獣派と呼ばれるフォービズムへの流れに時代とともに移行していきますが、シャガールの作品も同様にその時代の流れを汲んでいくようです。フォービズムとは常識にとらわれず本能の赴くままにキャンパスに描いていくような手法と言えばわかりやすいでしょうか。それは「サーカス」を題材とした作品に多く見られます。

そしてキュビズムの画法も取り入れたシャガールはそのままシュールレアリズムの世界へと昇華していくのです。彼の生涯唯一のモデルでもあった妻のベラとの美しい愛を描いた作品の多くは、こうした手法に完成を見ることになります。私が好きなのは思いが募り首がろくろ首のように伸びてしまう絵や、魂が浮遊しているがごとく空を飛んでいる絵です。

私はシャガールのこの柔軟な姿勢も素晴らしいと思えますし、それぞれの手法に抗わず、なおかつ自分のものとしてプラスに作品に活かし、彼の世界観を高め続けたことに驚きを隠せません。多くの画家が頑固なまでに自らの主義主張や画法を貫くのに対して、シャガールはなんと柔軟で懐の深い画家なのでしょう。結果として、そのどの分類にも属さないシャガールだけの世界が構築されたのです。

その柔軟さは画風にとどまりません。シャガールの作品は絵画だけでなく、陶芸や挿絵そしてステンドグラスで見ることができるのです。最終的にステンドグラスの大家ともなったシャガールは宗教絵画よろしく聖書の話をテーマとした作品を残すようになりました。もはやシャガールの作品の中に美術史を見るようです。

彼の画家としての柔軟さは人間性にも見ることができるように思えます。私の若い頃はまだ存命であったシャガール。その表情は、ゴッホやピカソ、ダヴィンチのような天才が持つ激しいものとは明らかに一線を画する、とても優しく柔らかいものに私には見えました。

余談ですが、私が所有している複製画で掲げているのは“ルノワール”“トーマスマックナイト”そして“シャガール”です。

おすすめ10選

『誕生日』

 

『私と村』

 

『白い磔刑』

 

『恋人たちと花束と果実』

 

『3本のろうそく』

 

『孤独』

 

『7本指の自画像』

 

『ヴァイオリン弾き』

 

『アクロバット』

 

『ヴィテブスクの上で』