【2000年読書ランキング】で褒める

2000年読書ランキング

  1. 『レベル7』宮部みゆき
  2. 『変身』東野圭吾
  3. 『不夜城』馳星周
  4. 『火車』宮部みゆき
  5. 『千里眼』松岡圭祐
  6. 『恋』小池真理子
  7. 『B.D.T~掟の街~』大沢在昌
  8. 『凍える牙』乃南アサ
  9. 『バトル・ロワイアル』高見広春
  10. 『ヒトラーの防具』帚木蓬生
  11. 『天子に見捨てられた夜』桐野夏生
  12. 『ささらさや』加納朋子
  13. 『日曜日の夕刊』重松清
  14. 『動機』横山秀夫
  15. 『三たびの海峡』帚木蓬生

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「レベル7」宮部みゆき

「レベル7まで行ったら戻れない」―謎の言葉を残して女子高生は失踪した。このくだりからしてかなり印象的なつかみ。事件は謎めいて不穏だが真行寺親子の存在がほっこりして軽快でテンポがいい。練られた展開と結末、人間関係など秀逸なストーリー。宮部さんの素晴らしさを堪能できる一品。

②「宿命」東野圭吾

不慮の事故で脳移植を行った青年に起きた恐るべき変化。自分を侵食していくドナーの性格に立ち向かったのは“愛情”そのものではなかったか。医療サスペンスでありながら、その本質は純愛小説。青年の恋人の気持ちが痛ましいほどに尊い。

③「不夜城」馳星周

デビュー作とは思えないほど完成度の高いクライムノベル。当時31歳の作家が書くモノとはとても思えない。新宿を舞台に裏社会の複雑な人間関係や抗争をあますことなく映し出し、迫力ある描写で読者を強烈に惹きつける超弩級のノワール。主人公が銃の引き金に手をかけるその向こうに哀しすぎる結末が用意されていた。

④「火車」宮部みゆき

カード社会の問題を浮き彫りにした社会派小説。宮部作品の中でも評価が高く、最高傑作の呼び声も。失踪した女性の行方は一体どこに。現代社会に警鐘を鳴らす問題作。結末は賛否分かれるものの、作者曰く「この結末以外ない」「続編を書くつもりもない」。ここまで言わしめる自信の締め方に文句を言うまい。

⑤「千里眼」松岡圭祐

エンタメ作家・松岡圭祐さんの大人気シリーズ。最強カウンセラー・岬美由紀の活躍が痛快。「催眠」シリーズの嵯峨敏也とのコラボは今後のシリーズの軸となっていく。展開がわかりやすく、読む事に負担を感じない。物語が佳境を迎えるにつれスピード感が増していくのも心地よい。

⑥「恋」小池真理子

直木賞受賞の美しい官能小説。倒錯した恋にのめり込む主人公だったが、その屈折した展開はやがて嫉妬の炎によって崩壊していくことになる。人の心は理不尽なもので、特に恋心においては純粋であればあるほど狂気へと変わる。取り扱った関係や事件は泥臭いが小説の完成度は高く綺麗だ。

⑦「B.D.T ~掟の街~」大沢在昌

スラム化した近未来東京を見事なまでに作り出し、登場人物に息吹を与えたハードボイルドの傑作。緊迫したシーンの連続で息つく暇もない。疾走感あふれる展開、粋なセリフで閉められるラスト、そこに至るまで全く無駄がない一級のエンターテイメント。私立探偵の活躍に胸躍る。

⑧「凍える牙」乃南アサ

こちらも直木賞受賞作。女性刑事コンビが見事なキャラづくりできているので面白い。警察社会にはびこる女性蔑視の空気。戦う相手は事件そのものだけではないのだ。クールに立ち回りながらも暑い使命感を持った生き方が共感を呼ぶ。人間模様の描写も丁寧で良作に仕上がった。

⑨「バトル・ロワイアル」高見広春

中学生同士が生き残りをかけて殺し合うという過激な設定に話題騒然となった問題作。世論がまっぷたつにわかれたハプニングホラーの走り。退廃的なテーマのようだが映し出す子供たちの心はまっすぐで、極限状態が逆に真の愛情や友情を浮き彫りにしている。読ませる筆力は圧倒的。

⑩「ヒトラーの防具」帚木蓬生

ナチス・ドイツの内情を別視点から捉えた超大作。同盟国・日本から送られた主人公はヒトラーを敬愛してやまなかった。しかしやがて明らかになるナチスの残虐性。その後の彼の行動・発言は読み手に勇気を与える。同時に個人の人間の付き合いは国家間の事情を越え感動を呼ぶ。

⑪「天使に見捨てられた夜」桐野夏生

私立探偵・村野ミロシリーズの第二弾。失踪した女性を追うという事件そのものへの求引性が強く、真相究明への興味がつきない。ミロの動きは快活で小気味よく、真相解明の結末へとカタルシスが高まっていく。ミロの父・善三さんも名脇役として活躍。

⑫「ささらさや」加納朋子

ゴーストになった夫と残された妻・サヤの切なく愛しい連作短編ミステリ。陳腐な設定だが、世界観はとても温かく優しい。登場人物それぞれに味があり、全体的に明るい雰囲気を漂わせている。作品そのものが神々しささえ感じる加納朋子さんの出世作。

⑬「日曜日の夕刊」重松清

日常のささいな出来事を12の短編にまとめたノスタルジックな作品集。忘れかけていた感情ではあるが、誰もが通過したはずの感情が呼び起こされ涙を誘う。大人になってしまった今だからこそわかるあの頃の気持ち。重松清さんの代表作ともいえる珠玉の家庭小説。

⑭「動機」横山秀夫

4つの物語からなる連作短編型警察小説。短編でありながら重厚な作りで展開は極めてスリリング。味のある結末が特徴の表題作「動機」、終始ハラハラさせられる「逆転の夏」、メッセージ性の強い「密室の人」など、あらゆる角度から読者を満足させてくれる。

⑮「三たびの海峡」帚木蓬生

日韓の忌まわしい過去に対して真っ向から取り組んだ意欲作。日本人である作者が韓国人の視点から見つめた挑戦作でもある。単純に国家間の問題だけでなく夫婦・親子・家族の情も交えながら人間の感情そのものを考える。日韓の歴史の深部を捉え、批判ではなく進展を目的とした社会派小説。