【スーラ】を褒める

<色彩の調和を追求した点描主義の第一人者>

教科書にも載っている『グランド・ジャッド島の日曜日の午後』にはっと息をのんだ方も多いのではないでしょうか。美術の教科書に数多く名画も掲載されていますが、知っている有名な絵を除いては、このスーラの大作が一番多くの学生さんにインパクトを与えているような気がします。しかも教科書ではこの点による画法に目を奪われますが、その次にこの絵のとんでもない大きさに再度驚かされ、そしてその後少し考えた後、もう一度点描のことを思い出し気の遠くなる作業だということに気づくのです。驚きの三連発が繰り出されるのだから、そりゃ記憶にも残るってもんです。

スーラは結構裕福な家庭に生まれ、あまり生活に苦労することはありませんでした。けれどもそのせいか、社交性は低く人見知りで、時間があれば友達と遊ぶよりは絵を描くことに没頭していたようです。そして生来持っていた人並外れた集中力と忍耐力によって、あの点描主義を追求することができたのですね。

最初は古典的でアカデミズムな絵を描いていたスーラですが、彼の代表作の一つである『アニエールの水浴』がサロンで落選したことを機に彼の画風は変わっていくのです。よく見ると、スーラの絵の特徴である点描がこの作品には駆使されていないことがすぐにわかります。実はこの作品の低評価こそが、スーラに独自路線を歩ませることになったというのです。結果として、美術史でも欠かせない(というより美術史としては格好のアクセントの効いたネタでもありますよね)点描主義の第一人者としてのスーラが誕生していくわけです。

何をおいてでもスーラを褒めないといけないのはやはり『グランド・ジャッド島の日曜日の午後』でしょう。おびただしい数の小さな色の斑点から成り立つこの作品は、縦2メートル、横3メートルというとてつもない大きさのキャンバスに書かれた超大作だったのです。この点描主義はスーラが着手する少し前から登場していたものの、ここまでの大きなインパクトを持って仕上げられた作品はありませんでした。この技法は学校でも学ばれたと思いますが、簡単に紹介しておきます。従来のパレット上で絵の具を混ぜ合わせることによる色の表現を、根本から考え方を変え、見るものの目の中で混じり合わせてもらおうというものです。そのため色を重ねることなく細かい点を補色関係を計算しながら、点の集合あるいは短いタッチで表現しています。基本的に線や面は存在しません。これは現代における“画素”の基ともなっており、デジタル時代において隆盛を誇ることとなりました。だからこそ、スーラを褒めないといけないのです。え、何故かって。そんなこと普通の人間はできませんよ。気の遠くなる作業で時間もめちゃくちゃかかるんですよ。負荷がかかりまくりです。それをさらにどでかいキャンバスに描いただなんて、他の誰にできると言うのでしょうか。スーラさん、凄すぎます!

さらにスーラを褒めましょう。多くの人に知られた点描主義ですがスーラの追求はそこで止まったわけではなかったのです。その後、彼は印象派の多くの画家が頼りにしていた直感を信じず、理論的根拠を求めていくのです。それは絵画の仕組みに対する飽くなき探求心であり、彼が絵画そのものを愛していたことを示しています。すなわち、点描主義には描かれない線に着目しているのです。線の傾きにより心理描写が変わることを突き止めたスーラは、陽気な作品には上向きの線(線ではなく点の並びですが)を、落ち着きを表したい時には水平の線を、不安・悲しみを表現したい時には下向きの線を使うようにしたのです。未完成ながら『サーカス』はこの陽気さが作品越しに伝わってきます。もちろん、そんなことは多くの画家も気づいていたものの、点描主義をとることにより一度無くした線の概念に目を向けるところが素晴らしいと思うのです。

さらに、垂直線と水平線(何度も言うように線ではなく点の並びですが)の幾何学パターンを入念に調べ、作品としての構図、骨組みを計算しつくしたと言われます。なるほど『ポルタンベサンの日曜日』においては穏やかな海と静かな港が前述の水平な線とマストの群れや建物、港、人それぞれが完全なる調和をもって描かれているのがよくわかります。ここまで作品に緻密さをもって対峙したのはスーラの他多くはいないことでしょう。尋常ならざる集中・忍耐を使い果たしたことでしょう。

スーラは31歳の若さでこの世を去ります。その死を悼んだシニャックが「彼は働きすぎで命を縮めた」と語ったのも頷けてしまいますね。秘密主義で内向的で作品を描くためにほぼ引きこもり状態の彼ですが、秘密の妻子がいました。モデルのクノブロックと一緒に住み、一児を設けています。ただ子供が1歳のときに亡くなってしまい、妻子を母親に紹介したのは亡くなる2日前だったそうです。

おすすめ10選

『サーカス』

『グランド・ジャッド島の日曜日の午後』

『シャユ踊り』

『ポルタンベサンの日曜日』

『ポルタンベサンの港』

『パレード』

『クラヴリーヌの港』

『ポーズする女たち』

『アニエールの水浴』

『化粧する若い女』