【2014年読書ランキング】で褒める
2014年読書ランキング
- 『その峰の彼方』笹本稜平
- 『京セラフィロソフィー』稲盛和夫
- 『虚ろな十字架』東野圭吾
- 『ロスジェネの逆襲』池井戸潤
- 『アンダーカバー秘密調査』真保裕一
- 『銀翼のイカロス』池井戸潤
- 『鹿の王』上橋菜穂子
- 『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』森岡毅
- 『余命1年のスタリオン』石田衣良
- 『太陽の棘』原田マハ
- 『紙の月』角田光代
- 『光秀の定理』垣根涼介
- 『海と月の迷路』大沢在昌
- 『ヒーローインタビュー』坂井希久子
- 『恋歌』朝井まかて
それぞれの一言コメント
※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。
①「その峰の彼方」笹本稜平
登山モノの多くが登山者自身の目線で描かれているが、本作品では遭難者を取り巻く関係者の救出を中心に物語りがすすむ。なぜ高名な登山家が消息を絶ったのか、それよりもなぜその山に向かったのか。手に汗握る展開と人間同士の熱い絆が読む者の心を強烈に揺さぶる。力量を感じる一品。
②「京セラフィロソフィー」稲盛和夫
京セラの創始者にして、KDDIの立ち上げ、JALの再生と松下幸之助に続く現代の“経営の神様”となった稲盛和夫氏の哲学書。内容はこれまでの数多くの著作でも語られていたことではあるが、その集大成と言える。ビジネスの原点でもあり神髄でもある。もはや社会人の必読書と言えよう。
③「虚ろな十字架」東野圭吾
東野ファンであれば登場人物たちの心情や人間関係に焦点をあてがちになるところだが、今回はどちらかというとテーマそのものが前面に押し出されている。死刑は是か否か。慎重に双方の考え方を映し出しながら結論を読者に委ねる手法をとっている。いずれの結論にしても歪みが生じ虚しさが残るのは間違いない。
④「ロスジェネの逆襲」池井戸潤
半沢直樹シリーズ第三弾。子会社に出向させられた半沢が古巣との対決に挑む。と同時に、バブル以降のロスジェネ世代が前世代に対して怒りののろしもあげている。世の中決して捨てたもんじゃない、絶体絶命の中、あきらめずに闘い続けて辿り着いた結末に拍手喝采。胸のすくような作品だ。
⑤「アンダーカバー秘密調査」真保裕一
スピード感あふれる真保作品が帰ってきた。ここのところ懲りすぎて逆にリーダビリティを失ったり、エンタメに走りすぎて作品が軽くなってしまう傾向があったのだが、この作品はとてもバランスがよい。青年実業家が自らの窮地を、自らの知恵と決断で逆転していく。次第に大きなうねりに巻き込まれていく展開も面白い。
⑥「銀翼のイカロス」池井戸潤
半沢シリーズの第四弾は銀行に復帰した半沢の活躍を描く。作品を読了後にタイトルを見直すと実に意味深い。“銀”=銀行、“翼”=「合併前の両行」、神話のイカロスはロウで固めた鳥の羽を使い太陽に向かった。イカロスは地に墜ちたが、大きな勇気を示したとされている。今作のイカロスが誰が注目せよ。
⑦「鹿の王」上橋菜穂子
『獣の奏者』で有名な上橋さんが驚くことにコロナを予見していたかと思わせる作品を発表。もちろんファンタジー作品ではあるのだが、近代の世に対する警鐘ともなっていた。医療・民族・家族など様々なテイストが織り込まれ傑作エンターテインメントに仕上がっている。完璧な登場人物はおらず未熟なところが親しみやすい。
⑧「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」森岡毅
2014年秋、USJにハリーポッターの世界が登場し話題をさらったが、その前からバックドロップという後ろ向きのジェットコースターが入場者数の激増を支えていた。若きCEOが既存のトップや幹部とぶつかりながら、勇気を持って改革に取り組んだことが実を結ぶ。働き方のヒントになる一冊。
⑨「余命1年のスタリオン」石田衣良
タイトルは重いが内容はとても軽くて面白い。主人公は前向きどころか、軽すぎて拍子抜けしてしまうくらいだ。だが、だからこそ、死という大きな絶望に向きあう姿が心に残ったのかもしれない。追い詰められたとき人間が望むものは本質的なものばかりだった。
⑩「太陽の棘」原田マハ
戦争というつらい現実の中で誇りを持って生きてきた男の素晴らしさ。そして育まれた友情の尊さ。まっすぐに生きることは時として圧倒的な力を与える。原田マハさんの得意な美術というフィールドにこんなにも題材としてふさわしい事実があったことに驚く。装丁の絵画も実際のものらしくとても味わい深い。
⑪「紙の月」角田光代
罪であることがわかっていながら止める事のできない恐ろしさ。まさに墜ちていくとはこの事だ。人間の醜さ(弱さ)を浮き彫りにした作品。人は愛おしいほどに弱く浅ましい。欲望を手に入れるために狂気と化すのに、行動はあまりに稚拙だ。しかし誰しもそんな境遇に陥る可能性を持っているのだろう。
⑫「光秀の定理」垣根涼介
昨年の大河ドラマが放送されるまで、明智光秀と聞くと良いイメージがない人が多かったのではないか。それもそのはず、あの裏切り者の三日天下の悪党として有名だったのだから。しかしあの信長に認められ、秀吉のライバルと目された人物である。明るく理知的な光秀がこの作品では描かれており、活躍してくれる。
⑬「海と月の迷路」大沢在昌
長崎の軍艦島は廃墟となった無人の島。そんな島を舞台にハードボイルドミステリを編み出すのは用意ではないと思うが、さすが大沢さんと言ったところか。スリリングあふれる展開で読む者を飽きさせない。新宿鮫シリーズに似た世界観は東京新宿を離れても健在だった。
⑭「ヒーローインタビュー」坂井希久子
これはいい目のつけどころだと思った。ほとんど活躍しなかったり、一瞬しか輝きを見せなかった選手たちにスポットライトを当てた。しかし彼らには彼らのドラマがある。取り巻く人間ドラマは成功者同様、いやそれ以上に奥深い。ライバルたちのコメントから一人の選手の実力を垣間見られるのも面白い。
⑮「恋歌」朝井まかて
直木賞受賞作品で、品のある文体と、大胆かつ急展開を見せる構成が受賞に値する作品だと思わせてくれる。水戸藩を取り巻く政治、混沌とする勢力争いに巻き込まれながら、女流歌人の切なくも哀しい人生を描く快作。時代に翻弄されながらも、歌を通して思いを残した中島歌子に強く惹かれた。
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