【『ぼくのメジャースプーン』辻村深月】を薦める

読書のススメ(3分で読めるよ)

やっと辿り着きました、『ぼくのメジャースプーン』の褒め記事まで。って、さっさと書けばよかったんですけどね(笑)。この作品の特別感は半端ないです。タイトルを見るだけで涙が出そうになります。SNSでこの作品の記事を見かけるたびに、話しかけたくなってしまいます。誰かと思いを共有したいと強く思ってしまう作品なんです。

そうそう、もし辻村作品を未読であれば、本作品を読む前に辻村深月ワールドすごろくに従って読むことをおススメします。もちろん従わなくても十分に楽しめる作品ですが、あえて言わせていただくならば『子どもたちは夜と遊ぶ』⇒『ぼくのメジャースプーン』⇒『名前探しの放課後』の流れだけは守っていただくとより楽しめると思います。

この作品は辻村ワールドの大きな世界線の中でも重要な位置を占めている作品だと思います。ミステリとしてのカギを一つ握っているため、その観点からも本当は記事を書かないといけないのでしょうけれど、私がこの作品を紹介したい魅力は他にあるのです。それは重松清さんの作品にも似たノスタルジックでどこかしら切ないような、けれども根底ではほっこりするような作品の持つ雰囲気です。辻村作品の中には時折、殺人がおきてしまったり、目を背けたくなるようなシーンが描写されていたりします。正統派ミステリ作家ですから当然そういった世界は触れずにはいられないことでしょう。それはそれで大いなる魅力ですし、実はその部分があるからこそ、辻村作品全体が輝いているのですけどね。一方で辻村さんは大のドラえもんファンであり、夢を描き、ファンタジーを追い求め、そしてほろっとさせてくれるようなそんな世界観をお持ちなのです。実際、ドラえもんの脚本をも手掛けるようになり、名実ともにドラえもんの世界を創り出す方になられたのは有名な話ですね。そんな夢を感じさせてくれるような作品が大好きです。母となってからの辻村作品にはより温かみが増し、辛い現実の中でも明るい未来を示唆するようなテイストのものが多くなってきました。『かがみの孤城』などはその最たる例ではないでしょうか。

主人公の“ぼく”は不思議な力を持った少年です。けれどもエスパーものではありません。その力の使い方をめぐって本当に大切なことを学んでいくことになります。“ぼく”はその力の使い方を知らずに使ってしまい、力を使うことが禁じられてしまうのですが、これは『子どもたちは夜と遊ぶ』を読んでいると、より理解が深まると思います。そして“ぼく”の幼馴染の“ふみちゃん”。この二人の間に通う心の交流がこの作品の醍醐味となっていきます。ある日、二人の学校で飼っていたうさぎが殺されてしまいます。この事件がきっかけで“ふみちゃん”は壊れてしまいます。それをなんとかしたい“ぼく”。そのために禁じられていた力を使う場面がやってきます。そのために“ぼく”は力の使い方を“秋山”さんに学ぶことになります。この秋山こそ『子どもたちは夜と遊ぶ』のメインキャラでもあります。この力に秘められた法則、これがなかなかにややこしくて難しいけれど、よく練られた理論となっています。そしてこれこそが“ぼく”を悩ませ、読者を悩ませ、葛藤を生み、物語に深みを与えていくことになります。そしてついに“ぼく”はその法則を使って力を使う決意を固めます。さてその結果と行く末はどうなったか、ぜひご自身が実際に読んで確かめて欲しいと思います。

ちなみに“秋山”さんの放つ言葉は『子どもたちは夜と遊ぶ』の伏線の回収にもなっているような気がします。“秋山”さんはとても優しい人でしたが、同時にとても厳しい人でした。それは“ぼく”にとっても容赦のない厳しさであり、妥協を許さないものでした。けれどもそれは“秋山”さんに物語があるからなのです。子どもの“ぼく”には少々難しすぎるテーマなのかもしれません。

さて結末はどうあれ、ラストの“ぼく”と“ふみちゃん”の描写は私にとって最高の名シーンです。この描写こそ重松清さんのノスタルジックな世界観を感じさせる部分でもあり、辻村作品の他の作品との大きな違いを感じるところです。辻村さんがただのミステリ作家ではないということを知らしめたのではないでしょうか。

レビュー

<読みやすさ>

辻村ワールドすごろくに従って読んでいる人はスムーズに入っていけると思います。初読みの方は少し設定を掴むのに苦労するかもしれませんが、別に支障はないと思います。どんな作品であれ設定を掴むのにはいささか時間がかかるものでしょうし。そのうち慣れて読み進められると思います。後半は一気読みです。

<面 白 さ>

読み物としての面白さは群を抜いています。私自身の“名刺代わりの小説10選”の一作であり、年間ランキングにおいて珍しく文庫本での1位獲得作品でもあります。とても辛いシーンが多いので、形容詞に違和感を覚えるかもしれませんが、間違いなく読むことの素晴らしさを教えてくれる作品だと思います。

<上 手 さ>

上手いなんてもんじゃありません、言葉の魔術師かと思うくらいです。そもそも辻村ワールドの構築が素晴らしいのですが、突出した上手さを感じるのが今作です。『名前探しの放課後』とあわせて読むとその技巧に簡単することでしょう。さらに他の作品とも繋がっており、辻村さんの作家としての無限の可能性を見出すはずです。

<世 界 観>

前述の“上手さ”はこの世界観の見事な構築によるものでもあります。今作をおススメしておきながらなんですが、できれば辻村ワールドすごろくに従って順に読んでいくことをおすすめします。全作、辻村さんの描き出す世界でつながっており、壮大な物語を成しています。もちろん今作だけでも世界観は抜群ですが、より楽しめるかと思います。

<オススメ度>

おススメしたくてたまらなかったのがこの作品です。私はおせっかいながら、出会った“ふみちゃん”にはこの作品の話をし、のっかってくれた“ふみちゃん”にはこの作品をプレゼントしているくらいです。今この褒め記事を読んでいる“ふみちゃん”。私とお会い出来たら『ぼくのメジャースプーン』をプレゼント差し上げましょうw